このチームはほどなく、のちにGE製スキャナーの〈アドベンチャー・シリーズ〉となるもののプロトタイプを生み出すことになる。機械本体の複雑な内部は何ら変わらないが、装置の外観はもとより、装置を設置する検査室全体をカラフルに装飾し、宇宙旅行や海賊船の旅へといざなう空間に変貌させた。さらにチームは、MRIのオペレーターのために想像力あふれる台本も用意し、子どもたちを物語のなかへと導けるようにした。たとえば、MRI装置が恐ろしくてけたたましい騒音を出し始める直前、「さぁ、ロケットが超光速でワープを開始するから、よ~く耳を澄まして~!」と言い聞かせるのである。

 こうしたシンプルな改変が大きな違いを生み、MRI検査を要する小児患者に鎮静剤を使う件数が激減したばかりか、家族の満足度も飛躍的に高まった。それ以降、CT(コンピューター断層撮影)やPET(ポジトロン放出断層撮影)、レントゲンなど、他のイメージング検査室にも同じような改善が加えられ、同様の成果を上げている。

 しかし、自分の願いが達成できたことをディーツが真に実感したのは、アドベンチャー・シリーズで検査を終えたばかりの別の少女の言葉だった――「お母さん、あしたまた来てもいい?」。その日、涙を流したのはディーツ1人だった。

 ディーツが小児科のイメージング検査の体験を刷新できたのは、創造力への自信を取り戻せたからだ。我々がHBR論文「IDEO流 創造性を取り戻す4つの方法」で説明したガイドラインに従って、多くの人々が恐れがちな4つの事柄から逃げることなく取り組んだのである。

やっかいな未知なるものへの恐れ:ディーツはデスクを離れて地元の病院を訪れ、直接知見を集めることで、これを克服した。

評価されることへの恐れ:すでに成功して利益を上げている装置を考え直したい、と上司に申し出た時に、ディーツはこの恐れを断ち切った。

制御できなくなることへの恐れ:技術者でもなければGEの人間でもない人々をプロジェクトに招き入れることで、ディーツは自分がすべてをコントロールしなくてもよいという事実を受け入れた。

第一歩を踏み出すことへの恐れ:ディーツはすぐにプロトタイプの製作に取りかかり、マンガのようなステッカーで装飾するという大胆な試みさえ辞さず、最初の一歩を踏み出した。

 ディーツの創造力をかき立てたのは、ひとりの少女の怯えだった。しかし、実際の成果をもたらしたのは、彼が4つの恐れを克服できたからにほかならない。


HBR.ORG原文:Fighting the Fears that Block Creativity  November 20, 2012

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トム・ケリー(Tom Kelley)
IDEOゼネラル・マネジャー。カリフォルニア大学バークレー校ハース・スクール・オブ・ビジネスおよび東京大学iスクールのエグゼクティブ・フェロー。デイビッド・ケリーとの共著にCreative Confidence(邦訳『クリエイティブ・マインドセット』日経BP社、2014年)がある。

デイビッド・ケリー(David Kelley)
IDEO創設者兼会長。スタンフォード大学機械工学科ドナルド・W・ウィッティア記念講座教授。同大学ハッソ・プラットナー・インスティテュート・オブ・デザインの創設者でもある。