創造性を最大限高める方法とは

 ピクサーの経営を象徴しているのが、「ブレイントラスト」と呼ばれる会議です。これは制作中の作品を評価するために、数か月ごとに何人かの社員が集まって率直に話し合う会議です。クリエイターは得てして自分の作品を批判されるのを好みません。しかし多くの人の意見を参考にすることは、よい作品をつくるうえで欠かせないプロセスです。ブレイントラストで率直に感じたことを話すことで、クリエイティブの批評ではなく、さまざまなバックグランドを持つ人の集合知を投入した問題解決の場となっているのです。

 このような文化を築いたキャットムルは、まるで禅僧か哲学者のような、とても穏やかな人だそうです。自身はクリエイターではありませんが、クリエイターから絶大な信頼を勝ち得ているからこそ、確かな結果を残しているのでしょう。経済原理を熟知した戦略家とも、アーティストともいえない経営者ですが、世界でもっともクリエイティブといわれる企業を成功に導いています。

 成熟した市場では、既存の事業の延長線上から新しいものが生まれません。いまこそイノベイティブな商品や事業の誕生が何より望まれています。そんな時代はクリエイティブなちからを最大限に引き出すことができる、エドのような経営者が望まれているのではないでしょうか。新しい時代が求める新しいタイプの経営者像を体現しているのが、エド・キャットムルのように思えてなりません。

 なお、ピクサーといえば、スティーブ・ジョブズが関与していたことも有名です。その可能性を誰よりも信じ、ピクサーの成長を資金面でも業務面でも支えたのがジョブズでした。本書ではジョブズの話が何度も出てきますが、終章では、ジョブズへの惜別の情がつづられています。ピクサーが最も苦しい状況を支えたジョブズとの思い出と感謝の念がつづられた終章は、涙なくして読めませんでした。(編集長・岩佐文夫)