私はハーバード大学とシカゴ大学のビジネススクールの同僚たちと、次のような実験をした(英語論文)。架空の不動産取引を設定し、被験者の企業幹部たちにペアを組ませ、買い手役と売り手役に分かれ交渉してもらった。交渉のテーマは、土地の価格のみ。売り手にはあらかじめ、検討対象の土地は住宅地としての用途に限定されていると伝えてある。しかし買い手には、都市計画法がもうすぐ変わることを知らせてある。そうなれば土地を商業利用できるようになるため、当然ながら価値は上がる。買い手は明らかに、この情報を売り手と共有したがらなかった。実際、売り手から「この土地を商業区域として開発するつもりですか」と訊かれた買い手の多くはウソをつくか、上手にはぐらかした。

 ペアの半数には、交渉前に握手をしてもらった。残りの半数は対照群として、握手について具体的な指示をしなかった。後者のほとんどが握手をせずに、いきなり本題に入っている。これは時間の制約があったためと考えられる。握手を求められたグループは、対照群に比べてより公平な条件で妥結した。そのうえ、握手を求められたペアの買い手は、対照群の買い手に比べると、法律の変更に関して売り手を意図的に欺く傾向が少なかった。

 その後の追加実験では、これらの結果が統合的交渉(勝者総取りではなく、複数の争点を扱い双方に価値をもたらすための交渉)にも当てはまるかどうかを検証した(英語論文)。ある実験では、学生たちに「雇用者」と「求職者」の役割をランダムに割り振りペアを組ませ、後者の給与、勤務開始日、配属地を決める交渉を個別に行う時間を与えた。求職者は希望すればその仕事に就けるが、個々の条件については雇用者と交渉しなくてはならない。両者は配属地に関しては合意できるが、初任給と勤務開始日については意見が対立している、という前提とした。求職者にとっては給与が重要であり、雇用者にとっては勤務開始日が重要だ。したがって両者の満足が最大となる解決策は、求職者が最高の給与を得て、雇用者が最も早い出勤日を指定できることだ。我々は、交渉で最もよい成果を上げたペアにはボーナスを出すと伝えた(本物のお金だ)。

 ペアの半数には、交渉のテーブルに案内した時にこう告げた。「交渉を始める前には、握手をするのが通例です」。残りの半数には、すぐに席に着いてもらったため、握手の機会はなかった。与えられた交渉時間は10分以内。この実験の目的を知らされていない2人の助手が、交渉の録画をさまざまな観点から分析した。そこには我々の真の関心である、「互いの優先事項を率直に議論しているか」も含まれる。そして実験から、次の結論が得られた。握手によって、交渉者は意見の対立する問題をより率直に議論するようになり、双方の利得の合計が多くなった。

 私は幼い頃、弟や妹とおもちゃや本を取り合ってしょっちゅうケンカをした。世界中の多くの家族もそうだろうが、私の両親も「握手して仲直りしなさい」といつも言い聞かせた。このささやかな行為が、相手との一体感や思いやりをもたらすと信じていたからだ。いくつもの研究が示すように、交渉の場では、握手という単純な行為が実に強力な意思表示になる。


HBR.ORG原文:To Negotiate Effectively, First Shake Hands June 4, 2014

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フランチェスカ・ジーノ(Francesca Gino)
ハーバード・ビジネススクール教授。経営管理論を担当。著書にSidetracked: Why Our Decisions Get Derailed, and How We Can Stick to the Plan(邦訳『失敗は「そこ」からはじまる』ダイヤモンド社)がある。