非公式のやり取りはさらに有益な場合もある。オランダのエネルギー企業、エセントのCEOアーウィン・ファン・レーセムは、CMOのドルカス・ケーネンに実践的なアドバイスを与える。「CEOは、会社のことを知り尽くしているようです。私に『ほら、気をつけろ。これをやらないと、こうなるぞ』と絶妙なタイミングで警告してくれるので、とても助かります」とケーネンは語る。

 しかし、これだけでは十分ではない。企業の予算においてマーケティング費が占める割合は、2011年以降着実に増加している。ところが顧客に最も影響が及ぶ意思決定事項については、多くのCMOが実質的な権限を持っていない。取引の多くが、マーケティングの管轄下ではないタッチポイントを経由するからだ。したがってCEOは、重要な施策を主導する権限をCMOに与えるとともに、顧客に影響を及ぼす重要な意思決定については拒否権も与えるべきだ。たとえば、エセントのCEOはレポートラインを変更し、マーケティングに携わる全社員がCMOに報告する体制にした。すると、瞬く間に大量の情報がCMOに集まるようになった。またシーザーズは、マーケティングと販売に関する予算と意思決定の権限をCMOに集約させている。

●CMOを部門間の「接着剤」にする
 顧客は購入決定に至るまでに平均して6つのチャネルを使用するが、それらはたいてい別々の部門で管理されている(英語動画)。「カスタマー・ジャーニー」といわれるこうした一連の顧客体験は、現代のビジネス環境の重要課題を浮き彫りにしている。つまりブランド側は、複数の職能が協力して、統合され首尾一貫した顧客体験を提供しなければならないのだ。そうしたカスタマー・ジャーニーの提供に秀でた企業は、収益を10~15%伸ばし、提供コストを15~20%削減できることが明らかになっている。

 CEOは、CMOが他部門の幹部と連携できる仕組みを構築しなければならない。フィリップス・ヘルスケアのディサンゾは、商品のコンセプト立案から市場投入までの一貫したプロセスを確立することで、この問題に対処した。そのプロセスには、オペレーション部門、顧客サービス部門、研究開発部門、臨床の専門家、販売部門、サプライチェーン管理部門、サービスチームまでが含まれる。マーケティングはこれらの部門に一貫した知見や助言を与えることで、各部門をまとめる「接着剤」の役割を果たすのだ。

●CEO自身がマーケティング部門に積極的に貢献する
「CEOの仕事の大半は、会社のマーケティングです。なぜなら顧客や投資家、ビジネス界に対して自社を定義する大事な役割を担っているからです」とシーザーズのCMOショーカットは語る。

 同社CEOのラブマンは四半期に1度、2日にわたって社内のシニア・マーケターが一堂に会するマーケティング会議に出席している。「CEOは出来上がったマーケティング戦略を受け入れるだけでなく、戦略の立案過程に参加すべきです。書類を読むだけでなく、実際の問題解決に時間と労力を割く必要があります」とショーカットは指摘する。ラブマンはマーケターとともに、問題解決に取り組み、アイデア出しを行い、さまざまなマーケティング施策に思慮に満ちたフィードバックを与えている。

 エセントのCEOファン・レーセムは、マーケティング人材の発掘をみずから行い、上級管理職の面接も自分でやっている。フィリップス・ヘルスケアのディサンゾは隔週でCMOと話す機会を設けている。

 このようにCEOには、CMOが活躍するための環境や組織体制をつくり上げる義務がある。その一方で、CEOをサポートして企業を大きく成長させるために、CMOができることもある。以下に3つ提案しよう。

●「マーケティングの設計図」を確立し、順守する
 企業は個々のマーケティング施策を立てるが、マーケティングそのものの設計図(詳細な計画、ブループリント)を持っている企業は驚くほど少ない。しかしこれは、マーケティングが事業目標にどう貢献するかを説明できるものである。誰が何をするのか、どんな支援を受け、どれくらいの期間を要するのかが特定できるからだ。そしてマーケティングの活動内容を、その結果や全社目標と明確に結びつけられるようになる。また、マーケティングの設計図によって、組織内の事業運営計画とも直接リンクできる。たとえば製造部門はマーケティングの販売刺激策に応じて増産の準備ができるし、販売部門は新商品の発売に合わせて人員を増強し、教育できるようになる。

 体系的な設計図が完成すれば、短中期的な目標の達成度を追跡するだけでなく、長期にわたる企業の健全性もチェックできる。たとえば、ブランド価値の追跡評価やマーケティング・ミックス・モデル分析などを駆使して、CMOは長期的視野によるブランド効果を的確に予測できる。CMOによるこうした洞察は、CEOが企業の長期的な健全性を把握するうえで重要だ。新任のCMOには、就任から90日以内にマーケティングの設計図を作成することをお薦めしたい。