メディアのプロとPRの専門家は、
自らの仕事の限界を感じたのか

 著者は『MEDIA MAKERS』の著者である田端信太郎氏と『戦略PR』の著者、本田哲也氏。本書は3部構成となっており、第1部が田端氏の執筆で、第2部が、「人を動かす」を1000人から10億人まで7つの単位にわけて、お二人で事例とともに論じ合います。そして第3部では本田氏が第2部、第3部を受けて執筆されています。

 結論から言うと、書名の印象通り、何ら解決策を提示している本ではありませんが、自ら解決策を探す手がかりが多いに得られます。それは、現在の環境変化への本質的な洞察があるからでしょう。かつて生活者が情報発信する機会が限られていた時代は、企業が社会全体の情報流通でコントロールできる領域が大きかった。それがいまや生活者が損得なしに発する情報が蔓延するようになり、相対的に企業の発する情報の力が弱まっています。本書のキーワードである「アンコントローラブル」な状況は、いまや常態として認識する必要があります。

 アンコントローラブルな世界で我々は何ができるか。そこに簡単な答えがないと本書は言い切り、その上で書名の「あきらめなさい」は反語であり、「あきらめるな」とエールを送ります。

 第2部では、多くの事例を題材にお二人の対談が収録されていますが、あたかも自分が一緒に議論しているかのような臨場感が味わえます。人を動かす力は、共感力か連帯感か、あるいは習慣のレベルに持っていくことか。答えは尽きません。

「あとがき」でお二人が別々に語っている言葉が印象的でした。本田氏は、1000人を動かすにしろ10億人を動かすにしろ、つきつめれば、原点は「ひとりを動かすこと」ではないかと本書を振り返ります。たしかに「ひとり」を動かせない人に何ができるのでしょうか。そしてその「ひとり」を動かすうえで最初のひとりは「自分」ではないでしょうか。自分を知ることから始まるように思えてなりません。

 田端氏の「あとがき」では、メディアの専門家として自分は「どうすればいいか」を説得力をもって語れないと自ら認めます。それでも勇気をもってリスクを背負うことの意義、そしてそれしかメディアの新しい世界に対峙していく術がないと語ります。ここに、訳知り顔で語る論者を圧倒する説得力がありました。(編集長・岩佐文夫)