なぜマーケティングの基礎理論を学ぶ必要があるのか

――神田さんが長年普及に努めているダイレクト・マーケティングについて教えてください。

神田 ありがたいことに、私はダイレクト・マーケティングのマーケターとして日本の一部ですがそれなりに評価をいただき、お陰様で書籍も読んでいただいています。ダイレクト・マーケティングはマス・マーケティングの言語体系と違います。市場を分析するよりテストをしたほうが早いという概念ですから。これまでは市場調査に莫大なお金がかかっていましたが、調査の前に顧客にダイレクト・メールを出して反応を見て、投資対費用効果で回収できる限りにおいてはダイレクト・メールを出していく、という考え方ですね。

 クリエイティブの考え方も大きく違ってきます。マス・マーケティングでは映像やテレビCMに代表されるようなマスメディアが影響力を持つため、そこにはクリエイティブが大きな影響を及ぼします。潜在意識にこびりつくことでブランド・イメージを高め、配下率を高めるのが典型的な方法でした。

 一方、インターネットが誕生して以降のダイレクト・マーケティングは、マーケットに露出したその時点で、広告の費用対効果を問われるというところに急速にシフトしてきました。具体的には1998年以降、CPO(Cost Per Order)やPPC(Pay Per Click)、ユニーク・ビューといったダイレクト・マーケティングの言語体系は一般的な言語としてインターネットの世界に浸透し始めます。

 そうした状況を見ていたので、実を言うと、もはやダイレクト・マーケティングさえわかっていれば通用するだろうと考えていました。マーケティングという概念、とくに需要を前提とした競争マーケティングにはほとんど意味がない。徐々にそちら側に基点がシフトしていき、企業として売上げを立てられるだろう、と。

 実際にそうなっていましたが、それまでのマーケティングは意味がないという理解は正しくありませんでしたね。自分がその流れに対応できたのは、マーケティングの基本的なフレームワークを理解したうえでダイレクト・マーケティングをやっているからだということに気づいたのです。

――なぜそうした基本的な理論を学ぶ必要あるのでしょうか。

神田 ダイレクト・マーケティングだけをやっていると、戦略が組み立てられません。そのため、刈り尽くしてしまったら、それで終りなんです。短期間では大きな刈り取りができますが、長期的な企業の競争優位性やブランディングという観点から考えると、コトラー教授の提供されるようなマーケティングの基礎概念を理解していないと難しい。そう感じています。

25年間持ち続けている当時の教科書

 どちらもある程度勉強してきたからこそ、今こそ本当の橋渡しがとても重要だと思います。過去のマーケティング競争戦略の中でのマーケティングに慣れている人、マス・マーケティングの言語を使っている人は、なかなかインターネットの言語を理解できない。ソーシャルネットワークの考え方についても、少し用語が違うことがありますね。逆に、若い世代を中心としたインターネットしか知らない人たちは、なぜ4Pが必要かを理解できない。

 メディアがミックスされたような状況では、テレビも、ラジオも、インターネットもあります。さらに一つで完結することなく、これからは媒体を超えたコミュニティのマーケティングにシフトしていくでしょう。そうした状況下では広範なマーケティングの知識が問われるので、最新のものと基本的なものの両方の知識を根づかせないといけない。そのために、たとえばコトラー教授の『Marketing Management』を教科書として学ぶのは最適な入り口だと私は思います。

――実務家が理論を学ぶ意義はどこにあると思いますか。

神田 教科書でベースを築いて、さらにある程度の業務体験を積んだとしたら、きちんと物事を考えられるマーケターになれると思います。どんな業界に就職したとしても、その業界における特性に応じた業界の理解ができるのは武器になるでしょう。

 まるで、いろいろな視点から眺められるようなメガネをいただいた感覚です。ベースさえしっかりできていれば、学習カーブも非常に短期間で加速することになります。見えないメガネ、精度の悪いメガネをいっぱい貰ったとしても、目の前が曇るだけです。

 この本には洗練されて混じりけのない、非常に透明度の高い情報が集められています。この中に書いてあるどのメガネをかけても、遠くまですっきり見ることができるでしょう。

次回更新は8月26日(火)を予定。

 

【編集部からのお知らせ】

9月24日・25日の二日間、世界中からマーケティングの巨星が結集!

ワールド・マーケティング・サミット・ジャパン 2014

日程:2014年 9月24日(水)10:00~18:45(予定)
       9月25日(木)9:30~17:40(予定)
会場:グランドプリンスホテル新高輪「北辰」
登壇:フィリップ・コトラー、デビッド・アーカー、アル・ライズ、ドン・シュルツ、高岡浩三(ネスレ日本代表取締役社長兼CEO)、新浪剛史(サントリー顧問 10月1日サントリーホールディングス株式会社CEO就任予定)、吉田忠裕(YKK代表取締役会長)、魚谷雅彦(資生堂代表取締役執行役員社長)ほか。
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