3.雇用創出は、ベンチャー生態系を育む第一の目的ではない。

 答えは◯。ベンチャー生態系は誰かが所有するものでもなければ、誰かに代表権があるものでもない。したがって、すべてのプレーヤーが同じ1つの目的を持つということはありえない。生態系を促進する動機はプレーヤーやステークホルダーによってまったく異なる。公共部門にとっては、雇用創出と税収の増加(財政の健全化)が第一の目的だろう。銀行ならばより大規模で儲かるローン・ポートフォリオだ。大学ならば知識の創出、評判の向上、寄付金の獲得などの恩恵が得られる。起業家と投資家にとっては財産を得ることが動機かもしれない。企業にとっては、イノベーション、製品買収、有能な人材の確保、サプライチェーンの開発といった動機が挙げられる。ベンチャー生態系が自律的になるためには、多くのステークホルダーが恩恵を受けなければならない。

4.地域のベンチャー生態系を強化するには、コワーキング・スペースやインキュベーション施設などの拠点を設ける必要がある。

 答えは☓。ベンチャー企業の成長にコワーキング・スペースが大きく貢献しているという、一貫した証拠はない。どの業界でも、大きく成長したベンチャー企業の始まりがインキュベーション施設であったという逸話をよく聞く。しかしあまり目立たないが、コワーキング・スペースを使わずに大きな成功を収めたベンチャー企業はもっと多い。コワーキング・スペースを利用すると創造性や集中力が下がるという者もいれば、それらの施設がもたらす人的ネットワークのおかげで、情報やアイデアにアクセスできると感じている者もいる。有益であろうとなかろうと、このような支援メカニズムはベンチャー生態系全体のわずかな一端を担っているにすぎず、生態系の強化には役立つかもしれないが必須のものではない。

5.強固なベンチャー生態系を築くには、起業に関する教育をしっかり行う必要がある。

 答えは☓。意外なことに、起業について正式な教育を行えば起業の増加やその成功につながる、と信じるに足る根拠は何もない。しかし、そのような教育が起業の促進には何の関わりもないという証拠はある(全米経済研究所による報告書はこちら)。イスラエルやルート128(マサチューセッツ州ケンブリッジ周辺の、科学技術を基盤とする企業が密集した地域)、シリコンバレー、オースティン、アイスランドなどのホットスポットでは、起業を教える講座ができるかなり前から起業家精神が活発だった。これらのホットスポットは自然に発展してきたのであり、その最大の要因は顧客へのアクセス、有能人材の雇用可能性、および資金へのアクセスだった。また、イスラエルのテクニオン(イスラエル工科大学)で初めて設けられた技術系ベンチャーの修士講座を私が教えたのは、イスラエルのハイテク企業が初めてナスダックに上場してから15年も経った1987年で、すでに起業活動がかなり活発化していた頃だった。

 私は、起業に関する教育が役に立たないと言っているわけではない。しかしそれは、地域のベンチャー生態系を促進する必須条件ではないと思われる。

6.ベンチャー生態系を活性化する原動力は、起業家である。

 答えは☓。こうした見解はよく聞かれる。たしかに起業家は数ある重要要素の1つであるが、唯一の原動力ではけっしてない。生態系というものは、多くの異なるプレーヤーたちが形成するダイナミックで自律的なネットワークであり、1種類のプレーヤーが活性化できるものではない。どのホットスポットにも、必ずしも起業家ではないが有力なコネクター(人どうしをつなぐ者)やインフルエンサーがいるものだ。たとえば1970年代~80年代のボストンでは、一部の銀行家や大学教授が生態系を活性化する触媒の役目を果たした。また、イスラエルでは初期に成功したベンチャーの多くに、3~4人の投資家が関わっていた。新興国市場では、エンデバーワムダなどのNGOが触媒として重要な役割を担ってきた。