勉強もスポーツも、基礎から学ぶとつまらない

琴坂 学生を舐めてはいけないと思うんです。いま学部生を教えていると感じますが、やってみてしまえば、できる学生はできます、それも当たり前のように。彼らはアン・ラーニングをする必要がないからかもしれません。実務経験もないし、学問の常識すらないなかで「これが絶対だ」と言うと「そうなのか」とできてしまう。

入山 僕の考えもまさに琴坂くんと一緒です。僕が基本信念にしているのは、「基礎はつまらない」ということ。単純な話ですけど、小さい頃はみんな野球選手やサッカー選手を目指しますよね。でもそれは、当たり前のプレーをする草野球のおじさんを見て「野球選手になりたい」と憧れるわけではない。

 イチローやマーくん(田中将大投手)を見て、トップレベルはすごいという感動や、あのレベルでもこれはできないんだという難しさを知って、初めてやりたいと思うわけです。学問も同じ話です。イチローを見ていたらすぐにイチローになれるわけはないけど、「すごい」と思うことでモチベーションが湧くからね。

「そう、逆算です。ゴールを設定して必要なことを埋めていくと、いつの間にかゴールにたどり着いています」

琴坂 まずはやってみることの重要性はありますよね。まったく恥ずかしい話ですけど、私の経営の原点は「まず売ってしまうこと」でした。まずは売ってしまい、そのあとでどうやったらつくれるかを考える。そうすると、経営のことなんて何も知らなくても、「印紙税って何だっけ?」と自然と勉強するようになる。最初から教科書で勉強しても頭に全く入ってこないことが絶対に身につきます。身につかないと訴訟問題で、それ以前に事業が破綻してしまうので(笑)。

入山 逆算だよね。

琴坂 そう、逆算です。ゴールを設定して必要なことを埋めていくと、いつの間にかゴールにたどり着いています。教育の世界は、学生が学問を舐めて、教員も学生を舐めるという悪い循環に入っている気がします。でも、教える側にも本当は能力があるし、教えられる側も何かを欲しいと思っている。それをどう引き出すか、日本に帰ってきてからのミッションだと感じています

入山 それはとにかく大事ですね。自分で言うのはあれだけど、僕はある程度それはやっているかな、と思っています。僕の早稲田大学MBAのゼミ生は平均年齢が30半ばくらいで、中堅のビジネスパーソンです。そんな彼らに海外のトップ・ジャーナルのなかから、彼らが関心あるテーマの論文を僕がオーダーメイドで選んで読んでもらっています。半分わかった気になってもらうとやる気がでますよ。

琴坂 アメリカもそうだと思いますけど、オックスフォード大学の大学院に入る時、6〜7割くらいの学生には実務経験があったと記憶しています。

入山 そうだね、アメリカもそうだった。

琴坂 そうですよね。彼らはすでに自分のネットワークや知識を持っていて、学ぶ関心もある状態で大学院に入ってきます。これにいいことはたくさんあって、その一つは教員にとって刺激を与えられることだと思います。学生に教えながら、教員も学んでいく、こういう良い循環ができてくるといいですよね。

入山 教員も学ぶよね、学生からはとくに。僕はとくに相手がMBA生だからそう思う。自分が普段は読まない論文を彼らは好んで読むこともあります。ゼミ生のなかに電機メーカーのデザイナーがいるんですよ。彼はとにかくデザイン好きなんです。

 あるときゼミで彼が選んだ『アドミニストレイティブ・サイエンス・クオータリ』のIDEO(シリコンバレーに拠点がある世界的デザイン会社)に関する論文を読んだことがあるんです。僕だけだったら読まないような論文なんだけど、読んでみたら「あ、これは使えるかも」と思って、日経ビジネスオンラインの連載コラムで紹介したら、そのコラム記事は一位になっちゃった(笑)。

琴坂 ゼミ生にとってもそれは嬉しいことだと思います。大学における学びって、教員と学生のある意味対等な、相互の学びであるべきですよね。

次回更新は9月1日(月)を予定。

 

【書籍のご案内】

『領域を超える経営学』(琴坂 将広:著)
マッキンゼー×オックスフォード大学Ph.D.×経営者、3つの異なる視点で解き明かす最先端の経営学。紀元前3500年まで遡る知の源流から最新理論まで、この1冊でグローバル経営のすべてがわかる。国家の領域、学問領域を超える経営学が示す、世界の未来とは。

ご購入はこちら
Amazon.co.jp 紀伊國屋書店BookWeb 楽天ブックス

 

 

 

 

『世界の経営学者はいま何を考えているのか』(入山 章栄:著)

『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』「読者が選ぶベスト経営書2013」第3位!
『週刊ダイヤモンド』「2013年の『ベスト経営書』」第3位!
米国ビジネススクールで活躍する日本人の若手経営学者が世界レベルのビジネス研究の最前線をわかりやすく紹介。競争戦略、イノベーション、組織学習、ソーシャル・ネットワーク、M&A、グローバル経営、国際起業、リアル・オプション、ベンチャー投資…ビジネス界の重大な「問い」は、どこまで解明されているのか。――知的興奮と実践への示唆に満ちた全17章。

ご購入はこちら
[Amazon.co.jp] [紀伊國屋書店BookWeb] [楽天ブックス]