チームでバイオリズムの波をヘッジする

 実際のところ、ソーラー・インパルスが軌道に乗るまで8年かかったという。初志貫徹は簡単ではない。「我々には飛行機をつくった経験がなかったので、どんなアイデアでも意見でも貪欲に取り入れようと必死だった。航空機業界に限らず、多種多様な業界80社以上のパートナーから最先端技術の提供を受けたが、同時にそれは、途方もない多様性をマネジメントすることでもあった」とボルシュベルク氏は振り返る。

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アンドレ・ボシュベルク氏。エンジニア、飛行技師。スイス空軍戦闘機や旅客機のパイロットとして活躍。マッキンゼーを皮切りに、スタートアップ、ベンチャーキャピタルでマネジメント経験を積む。

 たとえ可能性を固く信じていたとしても、さすがにもうダメだと思ったことはないのだろうか。ピカール氏は「疑念が湧くことはもちろんあった。だが、それはその時試していた方法なり技術なりに対してであって、根本にある太陽光で空を飛ぶことについては、不可能だと思ったことはなかった」と振り返り、「世界初である以上、難しいのはわかっている。簡単にできることなら、とっくにほかの人が実現しているはずだ。誰も実現していないからこそ、大いなる機会なんだよ」と自信たっぷりに笑う。

 ボシュベルク氏は別の視点から、リーダーが2人いることのメリットを指摘した。「人間なら誰しも感情面なり身体面なり、バイオリズムの波がある。いつだって絶好調、というわけにはいかない。しかし、志を同じくする仲間がいれば、どちらかが谷にあっても、どちらかが前に進むことができる」。1人でなく2人――それがリスク分散になり、また、違うモノの見方、考え方を担保できるというわけだ。

 たしかに、この点は日本のビジネス史を振り返ってもうなずけるだろう。ソニーには井深大氏と盛田昭夫氏が、ホンダには本田宗一郎氏に藤沢武夫氏という得難いパートナーがいた。ピカール氏もまた、「我々は、1+1=3になるような関係だ。アンドレと私は密にコミュニケーションを取り、何か問題に突き当たると、すぐに相談を持ちかける。1人で考えるより、はるかにいい解決策にたどり着く」と語る。

 2人のリーダーに共通するのは、「ポジティブ心理学だ」とボシュベルク氏。一方、ピカール氏は精神科医らしく「パイオニア精神ほど、抗鬱効果があるものはない」と指摘する。人生に失敗や不幸はつきものだが、そこで不安にさいなまれ、落胆する人の大部分は、必要以上に未知を恐れ、またそもそも、コントロールでいないことをコントロールしようとしているからだという。「たとえ実りのない失敗を10回したとしても、その後に莫大な利益につながる発見をするかもしれない。好奇心、忍耐力、尊敬――この3つの性質があれば何でもできる」

 エキサイティングであることと、有益であること、その両方が人生には必要だ。だが、面白いからこそ、続けられる。情熱があるからこそ、成し遂げられる。VUCAワールドでリーダーはいかに情熱を持ち続けるか――難題ではあるが、それは可能である。

(了)

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第1回】VUCA世界の容赦ないプレッシャーからリーダーが自分の身を守るには
【第2回】関係性の時代にこそ必要なマインドフルネス

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