マインドフルネス――世界の煩雑さから距離を置く

 よき関係性の起点となるのは、ある特定の人間というよりも、人と人の相互関係にある。会社やグループに属する者同士がどうやって互いにコミュニケーションを取り、その関係性のなかから何を生み出すか。カリスマによる属人的なパワーではなく、スキルとしてのリーダーシップの発揮により、関係性の中で多面的に影響力を及ぼしていく――。

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IMD教授、ベン・ブライアント氏。リーダーシップ論、組織論を専門とする。

 その変化は周囲が求めるからだけでなく、リーダー自身の望みでもあると、IMDのベン・ブライアント 教授は語る。

「この40年ほど、明らかにリーダー自身の望みが変わってきている。金や権力を得たいという人は減り、自律、自由、賞賛、認知を求める人が増えている」。

 背景には、2つの変化が挙げられる。まず、仕事におけるスキルの専門化である。「チーム内で専門スキルをもつ人々が集まり、物事を成し遂げていく。そういう環境では、公式の権力で人を従わせることはできない。認められるのはスキルのある人間であり、役職ではない。スキルがあれば移動の自由を手にできる。権力の価値は大きく下がってしまった」。

 もう一つが、アイデンティティを取り巻く変化である。「1500年代は、仕事と家族は同じ場所にあり、アイデンティティは同一環境のもとで保たれていた。1800年代に産業革命で仕事と家庭が分離され、機能のみが追求された。ここで最初のアイデンティティの危機が訪れる。フランスで自殺の研究が始まったのもその頃だ。そして現在、2010年以降はフェースブックやリンクトインなどSNSが全盛となり、誰もが承認欲求を持つようになった。イメージは“つくるもの”となり、自分が他人からどう見られているかが最大の関心事となった」

 他人からの評価が気になり始めると、常に心が揺れ動き、アイデンティティを保つことは難しくなる。心身のバランスを崩さないためにも、絶対に拒否されない「安全の基盤」が欠かせないものとなる。「家族や家族同然の友人がいればよいが、仕事そのものがその基盤となってしまうのは危険である。特に欧米においては、もはや安全な仕事などどこにもないからだ」とブライアント教授は心配する。もちろん、日本も対岸の火事ではない。

 もちろん、心身の安定を他人任せ、拠り所任せにするわけにもいかない。メンタル面の自己管理において第一に必要なのが、自分自身を知ることである。自分の思考、感情、関係性、身体の状態……。「自己認識と自覚(セルフ・アウェアネス)だ」と教授は語る。

 セルフ・アウェアネスの手段として欧米で近年、にわかに注目を集めているのが「マインドフルネス」である。瞑想の一種との誤解もあるが、それは違う。落ち着いてプロセスに注意を払ううち、息遣いや動きに集中していく、これら一連の流れを通じて自分自身の中で何が起きているかを知り、いまこの瞬間にフォーカスすることである。「マインドフルネスによって、世界のスピードがゆっくりと感じられ、複雑さから切り離される。そして自分自身への新たな気づきが生まれる。職場に戻ったときも、いま起きている自分の感情や衝動から離れて考える際に役に立つだろう」(ブライアント教授)。

 セルフ・アウェアネスの鍛錬を積むことはメンタルとマインドの両方に有効であり、客観的視点を得るだけでなく、集中力を磨くことにも役に立つ。リーダーにとって、いわば静的なセルフ・マネジメントの一種といえよう。

(つづく)

*第3回はこちら

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