良いデザインを実現しようとしてはじめに考えることは、優れたデザイナーにデザイン開発を委ねることである。一般にデザイナーは独立志向が高く、優秀なデザイナーほど独立デザイナーとしてクライアント企業のデザインを請け負うことが多い。IDEOのようにデザイナー集団が製品属性にとらわれず、外部のメーカーからデザインだけを請け負う企業も存在している。独立デザイナーの良い点は、アーティストとしてのデザイン能力が高いということだけではない。特定の産業分野の製品デザインに縛られないため、様々な産業分野で実現しているデザイン・アイデアを、異なる産業の製品デザインに持ち込める。外部産業のデザインとの統合力が高い点である。

 しかし、独立デザイナーにとって製品開発部門はクライアントであり、一般的にはクライアント側に最終的な意思決定の権限がある。そのため、デザインはデザイナーの手を離れて変形されてしまう可能性がある。

インハウス・デザイナーの持つ統合力

 一方で、インハウス・デザイナーには独立デザイナーとは異なる統合力がある。それはメーカー内部の人間であり、技術部門との距離が近いということである。デザイナーがアーティストと異なるのは、芸術性だけではない。優れたデザイン・アイデアを技術的な制約やコストの制約のうちに実現しなければならない。デザイナーがどんなに優れたデザインスケッチやデザインモックアップを作ったとしても、それが技術的に実現不可能であったり、製品コンセプト上のコスト制約を超えるものであったりすれば、彼らのアイデアは実現しない。

 この場合、デザイナーにデザイン変更の許可を下す権限があれば、優れたデザイン・アイデアは許容範囲内で変更できるかもしれない。あるいは、イン・デザイナーが自社の技術部門と日常的にコミュニケーションをとっていれば、技術的な制約を踏まえたデザインが行えるだろうし、より積極的にデザイン・アイデアを実現するための技術的提案をデザイナーが行うことができる。

 筆者が意匠権と特許のデータを分析して日本の大手家電メーカー二社を比較したところ、デザインを外部の独立デザイナーに委託している企業では、デザイナーが製品技術の開発に関わることは極めて少なかった。それに対し、インハウス・デザイナーのみで製品デザインを行っている企業では、デザイナーが積極的に技術部門と関わり、デザインを実現する技術開発にコミットしていることが分かった(特許出願の発明者としてデザイナーが参加している)。

 こうしたインハウス・デザイナーは、デザイン・コンセプトを実現するために主体的・積極的に技術開発に関わっている。そのため重量級プロジェクト・マネジャーほどではないにせよ、デザインを製品価値の主軸に据えた製品コンセプトの首尾一貫性を実現する重要な役割を担っていると考えられる。つまり、同じ家電製品であっても機能的価値が重要な製品開発には軽量級の組織が有効であるのに対し、デザインのような定性的で意味的な価値を重視する製品開発では、より「重量級的」な組織の方が適しているのである。「重量級的」としたのは、必ずしもデザイナーが重量級プロジェクト・マネジャーになればいいということを意味しない。目的は、権限が一人に集中することではなく、結果として定性的なデザイン・コンセプトと製品開発プロセスとの統合が図られることである。