つまり、自動車と家電を比較すると、自動車の方が、よりデザインが重要なだけでなく、デザインのマネジメントが容易であったのだろう。では、軽量級プロジェクト・マネジャーが開発を担う家電産業の場合、デザイン家電のような感性的で定性的なデザインをどのようにマネージしているのか。ひとつには、開発組織の規模が比較的小さければ、意思決定に関わるマネジャーの数が減る。あるいはワンマン経営者のもとでデザインを含めた製品コンセプトの統合が図りやすいと考えられる。

 デザイン家電の草分け的な存在として知られる北欧のバング&オルフセン(B&O)は、高級オーディオメーカーとしてニッチな市場に留まり続けることで、組織の強大化が避けられている。また、ダイソンの掃除機・扇風機、エレコムのPCアクセサリー、あるいはスティーブ・ジョブズの時代のアップルなど、デザインの良さが特徴になっている企業では、製品カテゴリーが限定的であり、総合メーカーに比べて組織の規模が相対的に小さく、トップの個性や権限が強い。自動車産業における重量級プロジェクト・マネジャー同様に、ひとりの感性にデザイン・マネジメントが集中できる。また、デザイン家電ベンチャーのアマダナは、家電大手の東芝のエンジニアらがスピンアウトして作った会社であり、会社の規模とマネジメントスタイルがデザインのマネジメントに大きな影響を与えていると考えられる。

家電メーカーはデザインをマネジメントできるのか

 それでは、大手の家電メーカーでは優れたデザインを生み出すマネジメントは不可能なのであろうか。そうではない。自動車のトヨタにしても大企業であり、家電との違いは製品属性の違いによる、プロジェクトのマネジメントが重量級か軽量級かの違いである。重量級の製品開発組織では、プロジェクト・マネジャーに権限が集中しているため、定性的な製品コンセプトが揺らぐことなく一貫性を保ちやすい。一方、軽量級の組織では、製品コンセプトの抽象度が上がるほど、様々な機能別開発組織間相互でコンセプトの解釈の幅が広がってしまう。

 そもそも、従来の家電製品のように、機能的価値の重要性が高いということは、製品コンセプトが形式知的であり共有がしやすい。だからこそプロジェクト・マネジャーが重量級である必要が無いということである。もし、家電製品の価値の軸が意味にシフトしているのであれば、もはや軽量級の組織を維持する必要は無くマネジメントのスタイルを変えることで、大企業でもデザインのような意味的価値を製品価値の主軸に据えた製品開発が可能であると考えられる。

 そこで重要になるのは、誰が、デザインと技術、製品との間を統合するかである。比較的規模の小さい開発組織であれば、スティーブ・ジョブズのようなセンスの良いマネジャーのトップダウンによる意思決定でデザイン、技術、製品の間のバランスをとれば良い。大企業であれば、ひとつの方法は社内ベンチャーを活用するという方法も考えられるが、良くも悪くも既存組織との関係性が絶たれるので、大企業としての規模のメリットが活かせなくなる。むしろ、大企業が大企業のままデザイン・コンセプトの一貫性を貫く手段としては、インハウス・デザイナー(企業に所属するデザイナー)に技術部門との統合の役割を担わせることのほうが有効であろう。