家電産業と自動車産業で異なるデザインのマネジメント

 感性は個人の主観であり、複数の人の間でコンセンサスを形成することは難しい。製品開発には様々な組織や人々が関わる。製品システムを構成する機能毎の技術(例えば、自動車におけるエンジン技術や、PCにおけるCPU技術のように)の開発を担当する機能別開発組織もあれば、ひとつひとつの製品開発プロジェクトを担当するプロジェクト開発組織も存在する。プロジェクト組織とは、並列的に存在する様々な機能別開発組織の技術成果を束ねて製品システムにまとめ上げる横串組織といえる。

 東京大学の藤本隆宏教授とHBSのクラーク教授は、プロジェクト開発組織のリーダー(プロジェクト・マネジャー)の権限が機能別開発組織に対して相対的に低い場合を軽量級プロジェクト・マネジャー、相対的に高い場合を重量級プロジェクト・マネジャーと定義した。自動車産業においては重量級プロジェクト・マネジャーが製品開発を統合し、製品コンセプトの一貫性を保つことが重要と指摘している。

 自動車産業では、製品を構成する基本技術や製品アーキテクチャの変化が家電産業に比べると少ない。音楽の再生装置が、100年の間にレコードから、磁気テープ、CD、MD、MP3と、それぞれ異なる基本技術を異なる組み合わせで実現する製品にダイナミックに移り変わるのに対して、ガソリンエンジン車は100年かけてハイブリッド車に置き換わろうとしているに過ぎない。産業毎に技術と製品の関係性は異なるのである。自動車のように、基本的な機能を実現する技術の変化が緩やかな場合には、プロジェクト開発組織が製品開発をリードすることが好ましい。基本技術の変化が激しい家電産業の場合には、機能別開発組織が製品開発をリードした方が良い。

 このことは、製品開発におけるデザインの位置づけとも関係している。自動車は、基本的な技術の変化が緩やかなため、早いタイミングで機能的価値の限界が訪れ、機能・性能以外の価値である意味的価値の重要性に気づいた産業であると一橋大学の延岡健太郎教授は指摘する。一方、家電産業では、技術変化が激しく、技術の進歩が機能的価値の更なる向上をもたらしたので、過度に機能的価値を重視する側面があったのかもしれない。

 他方で、デザインを製品開発のマネジメントとして捉えたときに、製品コンセプトをまとめ上げる重量級プロジェクト・マネジャーの権限が強い自動車産業の方が、ひとりのプロジェクト・マネジャーに感性的で定性的なデザインという要素の意思決定が集中的に委ねられている。そのため、様々なマネジャーの意思が介在する軽量級プロジェクト・マネジャーを擁する家電産業のような組織より、デザイン・コンセプトの一貫性が図りやすい。仕様表などに客観的・定量的に示すことのできないデザインの優劣は、複数のマネジャーが関わる民主的な組織ではコンセンサスが得にくいということである。