企業の次代を託すスマート・グロース(機知に基づく成長)・リーダー候補を発掘する具体的な手法とは。著者は、「マチュリティ」(成熟度)と「アジリティ」(学習機敏性)の二つの軸から人材の適性を測ることで、個々の持つ高い潜在能力が可視化できるという。
過去の成功体験は
あまり意味を持たない
ある多国籍企業の元CEOを称えるレセプションでのこと。元CEOは列席者である現職一人ひとりと最近の仕事の様子について言葉を交わしていた。ある事業部門トップが自分の仕事内容を話した後、元CEOは驚きの声を上げた。
「それは私がCEOだったときの仕事ではないか!」
実は、このような事例は枚挙にいとまがない。VUCA※なビジネス環境では職務難易度はいっそう高まっており、リーダーたちは経験がなく、容易に答えの出ない課題に向き合っている。そこでは過去の成功体験は、あまり意味を持たない。
思考様式やスキルの変化は大きく、イージー・グロース(安易な成長)時代の成功要因は、スマート・グロース(機知に基づく成長)時代には有効ではないことが多いからだ。Corporate Leadership Councilは2005年の調査で、リーダーの過去のパフォーマンスに基づいた将来のポテンシャル診断の71%が誤りだったと明らかにしている。
それでは、スマート・グロース・リーダーが備えるべき要素は何か? 私は二つあると考えている。
一つが、Leadership Maturity(=リーダーシップ成熟度。以下、マチュリティ)である。
これは、複雑さや曖昧さ、規模の大きな案件において、効率的な運営を行うことができる能力を指す。老練な幹部社員が、非常に複雑な状況でも冷静に状況を分析し、的確な対応策を導くことで解決していく姿を思い浮かべてみてほしい。
そこで発揮されているのがマチュリティだ。優れたマチュリティを発揮するリーダーは、より規模が大きく、複雑度を増している案件にも対処することができる。