コマツの〈KOMTRAX〉に見る事後創発性

 よく十年一昔というが、いまから10年ほど前の2000年代半ば頃、建設機械はコモディティ化の最先端をいく業界といわれ、「半値八掛け二割引」が日常的な業界用語だったという。そこに坂根正弘社長(当時、現相談役・特別顧問)率いるコマツが導入した〈KOMTRAX〉(機械稼働管理システム)は、製造業のサービス化事例として、また企業と顧客の共創事例としてよく語られる。

〈KOMTRAX〉は、建設機械の稼働状況を把握するセンサーと全地球測位システム(GPS)を自社製品に標準装備し、ネットワークにつなげたシステムである。コマツはこのシステムを通じて、現場における自社製品の稼働状況をリアルタイムで把握し、さまざまなデータやその分析結果を、顧客である建設会社や鉱山企業と共有することができる。

 価値共創事例としての〈KOMTRAX〉は、その事後創発のプロセスに本質がある。

〈KOMTRAX〉が開発された背景を考えると興味深い。建設機械は建設現場で荒々しい使い方をされることが多く、そのため頻繁に整備や修理の必要がある。故障が見つかるとコマツのサービス・ステーションに連絡が入るものの、問題の建設機械がどこにあるかを探すのが一苦労で、見つけるだけで半日かかることもあったという。

 そうした連絡が入った際に瞬時に探し当てられるだけでも役立つだろう、と〈KOMTRAX〉はスタートしている。つまり、どちらかというと供給側の論理で始まったサービスともいえる。

 実は1990年代の市場導入当初は、〈KOMTRAX〉は課金制のオプション・サービスとして提供された時期がある。しかし、その試みはあまりうまくいかなかった。「ぜひ、ほしい」と手を挙げる顧客がそれほどいなかったからだ。その時点では、コマツ自身も〈KOMTRAX〉の全貌が見えていないので、魅力を伝えきれなかったということも考えられる。

 しかし、2001年に社長に就任した坂根氏は、〈KOMTRAX〉を全製品標準装備とすることとした。その後、システムに登録される自社製品の普及台数が拡大し、顧客の製品使用行動がシステム上に蓄積されるにつれて、建設現場ごとの生産性の分析、燃料効率に関する助言、盗難防止や車両管理などの追加的な価値が見出され、顧客に提供されるようになった。

 こうした追加的な価値は、〈KOMTRAX〉を通じた価値共創を始める当初の段階においては、企業側の事前計画的な価値提案にはなく、事後創発的であったといえる。