ウェザーニューズ:「天気予報を取り戻そう」

〈無印良品〉同様にウェザーニューズの取り組みも、まさに使用価値に焦点をあてた価値共創事例といえる。

 同じ気象情報に関するサービスでも、気象庁による従来型の天気予報は、G-Dロジックの「価値づくり」に基づいている。気象庁がデータを集めて、天気予報をつくり込み、マスメディアを通してそれを一斉に発表する。サービスを提供する側である気象庁が価値創造を一手に担い、サービスを受給する側である我々が価値創造に果たす役割は限定的である。

 一方、ウェザーニューズが提供する天気予報は、価値共創型である。たとえば、同社が進める〈ゲリラ雷雨防衛隊〉というプロジェクトは、今年もすでに多発している「局地的大雨」の発生を観測し、事前にメールで知らせる取り組みである。ゲリ豪雨をもたらす雲は非常に低い高度で局地的かつ短時間のうちに発達するため、従来のレーダー・システム等ではタイムリーかつ正確にとらえることが難しいといわれる。

 この取り組みには、同社がサポーターと呼ぶ約800万人 (うち有料会員220万人)の顧客ネットワークが重要な役割を果たす。〈ゲリラ雷雨防衛隊〉に参画するサポーター(「ゲリラ雷雨防衛隊員」)は、怪しげな空や雲の様子を見つけると、随時携帯端末などで写真を撮影し、体感報告(「白っぽい」「灰色」「黒っぽい」といった見た目や、「真上」「近い」「遠い」などの距離感など)とともに同社に送る。同社の幕張グローバルセンターに置かれた「ゲリラ雷雨防衛隊本部」では、全国の隊員からリアルタイムで随時送られてくる画像や報告データに、気象庁観測データや同社が発生予想地に仮設した小型観測気象レーダーのデータなどを統合して予測が行われる。

 同社には日々、一日当たり平均で13万人(最大で25万人以上)のサポーターから、さまざまなデータや報告が寄せられるという。その結果、ゲリラ豪雨の場合、2013年度には全国平均9割以上の確率で事前に予測し、平均53分前にサポーターに知らせることができたという。

 また、同社の価値共創型の取り組みは、春先の桜の開花シーズンにも威力を発揮している。以前に気象庁が桜の開花予報を一手に担っていた時代には、東京の開花予報は靖国神社にある一本の標本木がその観測に使われていた。一方、ウェザーニューズの場合は、サポーターが開花時期を知りたい桜を「マイ桜」として選び、毎日の通学や通勤途中に写真を撮って送ってもらう。こうして日本全国から毎日集まる数十万件の写真と、個々のサポーターが送る主観的評価に、客観的なデータを合わせることで、一本一本の開花予想を実現する。

 従来型の天気予報が、気象庁がデータ収集、分析、発信を一方向的に行い、生活者はそれを消費するG-Dロジック型の「価値づくり」モデルであるのに対し、ウェザーニューズは顧客から携帯メールで届く桜の様子や空模様のデータを分析し、開花予報やゲリラ豪雨情報などを顧客ごとに個別発信する、企業と顧客が価値共創をするS-Dロジック型の世界観に基づく「価値づくり」事例といえる。

「天気予報を取り戻そう」

 これは、ウェザーニューズ創業者の故石橋博良氏が著書『金の天気予報 銀の天気予報』のなかで語っている言葉で、G-DロジックからS-Dロジックへの転換という観点からも非常に示唆に富む。気象庁型の天気予報は明治時代以来、百数十年の歴史があるが、日本の長い歴史から見ればそれはあくまでも一時的な現象であり、それ以前の日本人は一人ひとりが自分の天気を予想していたではないか、という。少々長くなるが、石橋氏の言葉を紹介したい。

「『天気予報はいったい誰のものか?』なんて、みなさんは考えたことがあるだろうか。…私の考えはこうだ。天気予報は、気象庁のものでもないし、気象予報士のものでもない。気象情報会社のものでもない。では誰のものかといえば、その情報を必要とする人、一人ひとりのものだ。…私はよく言うのだが、今や天気予報は、水道や道路、電気、通信に次ぐ第5のインフラになっている。インフラの整備は国の役割の一つだから、天気予報も国が中心になって整備してきた。その結果、天気予報はパターン化して、いつの間にか与えられるものになってしまった。」(石橋(2006), pp.16-18)

「しかし、私にいわせれば、今の天気予報は工業化時代の産物、つまり大量生産・大量消費の典型であり、情報が中央集権的な状態なのである。…昔は『観天望気』といって、自分たちで天気予報をやっていた。昔からの言い伝えを頼りに、空を流れる雲を見上げ、風の匂いを感じて、天気を予測していた。今の天気予報のように精度は高くなかったかもしれないが、自分で天気予報を出していた。しかし、テレビや新聞などの天気予報に頼るようになると、そうした長年受け継がれてきた観天望気がすたれて、雲を見ても風が吹いても、何も感じなくなってしまった。昔は必要なものは自分で手づくりしていたのに、大量生産で安価に手に入るようになると、他人任せになってしまうのに似ている。それはたとえば、台風や大雨など気象災害への備えにも影響を及ぼす。

 そこで誰もが気象ネットワークに参加して、天気予報を取り戻そうというのである。それは天気予報の精度を上げることにもなる。…たとえば、気象庁のアメダス(地域気象観測システム)は全国に1300ヵ所の観測所を設けている。もし1万人が観測に参加すれば観測密度は10倍近くになり、それだけ天気予報の精度は上昇する。一人ひとりの力は小さくても、ネットワークで結べば及びもつかない威力を発揮する。参加型の気象ネットワークは、天気予報の精度も向上させることになるのだ。」(石橋(2006), pp.96-98)

 この天気予報の例のように、長年にわたり企業から顧客への一方向的な「価値づくり」があたりまえと思われていた分野においても、価値共創の機会はあるかもしれない。企業側が一方的に価値をつくり出し、顧客はその価値を消費する、という価値生産と価値消費の分業モデルも、工業経済化の過程で生まれたものにすぎない可能性がある。

 いまの私たちの生活に定着しているように思えても、その価値づくりのモデルを変革する余地は残されているかもしれない。そう考えれば、どのようなビジネスにも、G-Dロジック型の価値づくりからS-Dロジック型の価値づくりへの転換可能性があるといえるのではないだろうか。

 こうした価値づくりの変化を踏まえたうえで、次回は、近年注目を浴び、『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』最新号でも取り上げている、行動観察やビッグデータなどの顧客の無意識や暗黙知に迫る手法が、価値共創の最前線において果たす役割やその可能性について考えてみたい。

参考文献
石橋博良(2006)『金の天気予報 銀の天気予報』(講談社出版サービスセンター)
小野譲司・藤川佳則・阿久津聡・芳賀麻誉美(2014)「共創志向性 ─ 事後創発される価値の原動力 ─」『マーケティング・ジャーナル』131号(2014, Winter), pp.5-31.
藤川佳則・竹下瑠美 (2012) 『無印良品 (C):良品計画における価値共創-2012年』 一橋ICSケーススタディ、ICS-112-003-J
藤川佳則・宇田川賢・竹下瑠美・本多由美・ジンジャー・リン (2011) 『ウェザーニューズ-どんなときでも、あなたと共に(A) & (B)』 一橋ICSケーススタディ、ICS-112-001-J, ICS-112-002-J

 

*次回更新は7月25日(金)を予定。