大胆に切り出そう

 交渉に不可欠な2つ目の要素は、最初に強気の提案をすることである。それは交渉の出発点になるだけでなく、その後の交渉の枠組みも決めてしまうからだ。車を買う時、あなたが最初に提示する額よりも少ない金額で合意に至ることはありえないし、新しい職に就く時、あなたが最初に求めた金額よりも高い給料をもらうこともない。ただし、最初から強気の提案をするにはある程度の自信が必要だ――促進焦点は、それを助けてくれる。

 ガリンスキーらの別の実験では、MBAの学生54名を2人ずつのペアに分け、それぞれに製薬工場の売却に関わる交渉を演じてもらった。「売り手」と「買い手」の両方に売却をめぐる状況について詳しい情報を与え、1700~2500万ドルの間ならば妥結する可能性が高いことも知らせておいた。

 研究者らはその後、買い手が促進焦点か予防焦点のいずれかになるように操作を行った(その方法はあとで説明する)。そして交渉が開始され、まず買い手が金額を提示した。この時、促進焦点を持つ買い手が提示した金額は、予防焦点を持つ買い手と比べて400万ドル近くも低かったのだ。リスクを恐れず積極的に低い金額を提示、最終的に大きな成功を収めた。実験の結果、促進焦点型の買い手が工場の購入に支払った金額は平均で2124万ドルだったのに対し、予防焦点型は平均で2407万ドルだった。

 この結果は、少し時間を取って考えるに値する。まったく同じ情報を与えられた2人が同じような相手と交渉を行ったのに、1人は400万ドル近くも多く支払うことになったのだ。違っていたのはただ1つ、1人は自分が得られるものについて考えており、もう1人は自分が失う可能性があるものについて考えすぎていたのである。

全員の取り分を増やすには

 促進焦点は、交渉相手よりも多くを獲得するうえで助けになる。しかし言うまでもなく、あらゆる交渉に勝敗が必定なわけではない。複数の案件を含む交渉では、双方にメリットをもたらすこともできる。双方の優先順位が異なっている場合があるからだ。優先順位が低い案件を譲歩することで妥協が成立すれば、双方にとって最も望ましい結果となりうる。これをガリンスキーたちは「パイを膨らませる」と表現している。

 こうした最善の解決策を見つけるのが得意なのはどういう人々だろうか。研究者らは双方の交渉者に促進焦点を持たせ、複数の案件が含まれる交渉を行わせた。すると、すべての交渉のうち79%で最善の結果が得られた。それに対し、予防焦点を持たせた場合は65%にとどまった。