もちろんマネジャーは、部下に問題を直視させる必要もある。ボヤツィスの言葉で言えば、「生き延びるためにはネガティブな焦点が必要であり、成長するためにはポジティブな焦点が必要である。両方を適切な比率で保つことが求められる」のだ。

 ノースカロライナ大学の心理学者であるバーバラ・フレデリクソンの研究によれば、ポジティブな気分の時は注意力の範囲が広がるため、より幅広い可能性を受け入れられる。そして、よりよい未来を築こうというモチベーションも高くなる。私生活と仕事の両方が充実している人は、ネガティブよりもポジティブな状態でいる時間の比率が高い傾向があるという。

 ウィスコンシン大学のリチャード・デイビッドソンの研究によれば、ポジティブなムードでいる時は、目標を達成した時に感じる気分のよさを思い起こさせる脳回路が活性化している。私たちはこの回路のおかげで、大きな目標に向けて小さな1歩を積み重ねていくことができる――大規模なプロジェクトの遂行、あるいは自分自身の行動を変える時などだ。

 私たちが目標へ向かって進むうえで欠かせないこの脳回路を動かしているのは、よい気分を引き起こす脳内物質であるドーパミンや、ランナーズ・ハイを起こす神経伝達物質であるエンドルフィンなどの内因性オピオイド(いわゆる脳内麻薬)である。こうした化学物質は活力を高め、それを満足や喜びに結びつけてくれる。ポジティブな見方を維持するとパフォーマンスが高まるのは、そのせいなのかも知れない。フレデリクソンの研究によれば、ポジティブな時は活力と集中力が高まり、思考が柔軟になるうえ、周囲の人々ともうまくやれるのだ。

 マネジャーやコーチは、このことを念頭に置いておくといいだろう。ボヤツィスによれば、相手の夢を理解すれば、その願いを実現するために何が必要かという対話を始めることができる。そしてそれは具体的な学習目標へとつながる。そうした目標を追求する過程では、誠実さや傾聴、協力といった能力を高めることになる場合が多く、それもパフォーマンスの向上へつながる。

 ボヤツィスは、社会人向けのMBAコースを受講したある人物の例を挙げている。エンジニア出身の彼は、マネジャーとして職場の人間関係を改善したいと考えていたにもかかわらず、任務の遂行においては「任務の内容しか考えておらず、一緒に取り組む人々のことが目に入っていなかった」という。

 彼の課題は、他者の感情を理解することだった。リスクの少ない学習方法として、彼は息子のサッカーチームのコーチを引き受けることにした。コーチをしながら、メンバーがどのように感じているかを気に留めるようにしたのである。そしてその習慣を、仕事にも取り入れた。欠点の克服ではなく、職場の人間関係をよくするというポジティブな目標を最初に設定したことで、目標をはるかに容易に達成できたのである。

 肝要なのは、弱みだけに焦点を合わせるのではなく、希望や夢も重視することだ。それが人間の脳の仕組みには合っている。


HBR.ORG原文:When You Criticize Someone, You Make It Harder for that Person to Change December 19, 2013

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ダニエル・ゴールマン(Daniel Goleman)
心理学者、科学ジャーナリスト
ラトガーズ大学のConsortium for Research on Emotional Intelligence in Organizations共同創設者。エモーショナル・インテリジェンス(EI:心の知性)の提唱者で、著書に『EQ こころの知能指数』(講談社)、『エコを選ぶ力―賢い消費者と透明な社会』(早川書房)などがある。