現在の主要顧客ではない潜在顧客を対象に、新たな成長戦略を模索しているイノベーターにとって、これは重要な教訓となる。現場に出かけなければ、顧客を知ることはできない。自分が本当に理解していない顧客については、間違った仮説を立てかねない。顧客についての報告書に目を通すのは有益だが、その顧客と面と向かって話し、彼らの暮らしぶりを観察しなければ、非常に限られた洞察しか得られないであろう。

 もし特定の地域や顧客セグメントを重要視するならば、その市場の実際の感覚をつかむために、必ず現場に赴く必要がある。これは上級幹部ほど重要となる。いまでも忘れられないのが、ある世界的なヘルスケア企業で、我々が支援するチームが経営幹部を相手にプロジェクト検討会議に臨んだ時のことだ。御多分に洩れず、同社にとっても中国は巨大な成長市場だと考えられていた。プロジェクトチームはフィールドワークから得られた知見を報告し、特に上海で目撃した爆発的な起業ブームについて詳しく説明していた。その途中、「ちょっと待った」とある上級幹部が言った。「中国は共産主義国家だろう。どうして起業家精神が育つのか」

 我々は何と答えてよいのかわからなかった。この幹部は上海に行ったことがあったが、おそらくは上海浦東国際空港から運転手付きのハイヤーで移動し、マリオットなどの高級ホテルに宿泊したものと思われる。空港のビジネスクラス専用ラウンジとオフィス街の中心にある5つ星ホテルとの間を往復するだけでは、現地市場の感覚などは得られない。

 現実世界は驚きに満ちている。会議室を抜け出し、現場を直接調査して、イノベーションの重要な意思決定に役立つ正しい情報を手に入れよう。

(本誌2014年8月号の特集「行動観察×ビッグデータ」では、顧客の潜在的なニーズを抽出するための行動観察とエスノグラフィーの手法を紹介しています。ぜひご覧ください。)


HBR.ORG原文:On Your Next Business Trip, Break Out of the Bubble October 31, 2013

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スコット・アンソニー(Scott Anthony)
イノサイトのマネージング・パートナー。
同社はクレイトン・クリステンセンとマーク・ジョンソンの共同創設によるコンサルティング会社。企業のイノベーションと成長事業を支援している。主な著書に『イノベーションの最終解』(クリステンセンらとの共著)、『イノベーションの解 実践編』(ジョンソンらとの共著)などがある。