良質な経営を行う企業に
ガバナンスはいらない

 企業には大きく2つのタイプがあります。成長拡大を目指す企業と、中身の確かさ、つまり質を求める企業です。一橋ビジネススクールの同僚の楠木建教授は、前者をO(オポテュニティ)企業、後者をQ(クオリティ)企業と名付けています。

 前者はアクセルをいっぱいに踏み込むので、チェック機能を持ち、暴走や脱線があればブレーキをかける仕組みが必要です。これがコーポレートガバナンスです。

 一方、後者は中身、つまり現場が自律的に機能しているので、形式的なガバナンスなどは本来不要です。その典型がトヨタ自動車で、現場のオペレーションの中に、Q(Quality)、C(Cost)、D(Delivery)をきちんと守るという魂が入っている。だから、ガバナンスを声高に叫ぶ必要がないわけです。

 ヤマト運輸も、現場に権限を委譲している点で徹底しています。高齢者宅に荷物を届けて、何度呼んでも出てこないというとき、鍵が開いていれば、ドライバーが中に入ることもあるそうです。

 欧米ではこんなことはまず考えられません。泥棒に間違われても文句は言えませんし、銃で撃たれるかもしれません。日本でも、普通は躊躇するのではないでしょうか。

 ところがヤマト運輸では、ドライバーの判断に任せているそうです。日ごろから顧客との関係を深めて、家族構成や在宅時間などの情報を持っているのは、本社ではなく現場のドライバーですから。

 もちろん、こうした信頼の背景には、しっかりとした裏付けがあります。従業員一人ひとりが、「ヤマトは我なり」という社訓を背負いヤマト運輸の代表としての意識を持ち、何をすべきか、すべきでないかという判断の軸を共有している。その自信があるからこそ、経営者は現場を信じて任せることができるのです。