日本がバブル経済真っただ中にあった1989年、三菱地所がロックフェラーセンターを約2,200億円で買収して、米国の魂を日本は金で買ったと批判されました。確か「ニューヨークタイムズ」だったと思いますが、「いいじゃないの、持って帰れないのだから」とクールなコメントを載せていましたが、まったくその通り。持ち帰れないという点で、不動産はローカルであり、グローバルにはなり切れないのです。

 日本でも最近、中国資本が森林を次々買収していると騒いでいるようですが、買いたいというならどんどん買ってもらえばいい。森を中国に持って帰ることはできませんからね。森林地主として十分手入れをしていただければ日本の森林保全に貢献するわけです。

――国境を越えて運べるものと運べないものがあるということですね。

 銀行が扱うお金には国境がないということでグローバル・ビジネスと思われていますが、そんな短絡的な考えをしたのでは判断を誤ります。実際はあらゆる国や地域のローカル規制の中で活動しており、その意味ではマルチローカル・ビジネスと考えるべきです。日本の銀行も海外市場に参加していますが、それぞれの国の持っている規制の中で、個々の市場や顧客の特性の違いに応じてそれぞれの事業を展開しています。

 企業顧客に関しても活動がグローバルな企業と一国内だけの企業では対応は違います。後者は相互連鎖の影響が極めて少ない場合もあります。また、銀行の扱っている商品も多様であり、それぞれ、ローカル規制の強いものとそうでないものもあります。起こっている現象総体を、一般的、平均的に捉えるのではなく、「場合分けしてメリハリを利かせて」考える。すなわち、「あの場合はこう、この場合はこう」と、個々の現象を実感ベースで捉える。その上で、全体の議論をするのが考える方法であり規律だと思います。

 グローバル・ビジネスは、ガソリンを見れば分かりやすい。ガソリンは世界中どの国でも同じ、地域や国によって違いをつける必要のない徹頭徹尾コモディティな商品です。

 エッソ石油社長を経て新生銀行の社長を務めた八城政基氏は、「日経新聞」の「私の履歴書」の中で自分を育ててくれたのはエッソだと言っておられます。京都大学法学部卒業後、東京大学大学院博士課程で国際関係論を修め、スタンダード・バキューム・オイル日本支社(エッソ石油の前身)に入社したときは、東大を出てなぜ外資系に行くのかと周囲からいぶかられたそうですが、その選択は間違っていなかったというのです。エッソ石油には素晴らしい人材育成システムがあって、自分のその後のキャリアはそのおかげであると。

 私もマッキンゼー時代に見ていたので分かるのですが、石油メジャーはグローバル人材の育成において先進的な考え方を持っていました。中でもモービルの人材育成が最も優れていた。そもそも現地採用などという概念はなく、どこで採用しようが世界中に行かせて世界同一訓練を行っていたのです。石油・ガソリンが最も地域性の少ないという意味でグローバルなビジネスであるゆえんです。