外から採れないのであれば、自社で育てるしかありませんね。

 ええ。これには別の意味もあります。ビジネスパーソンが会社を辞める理由についての調査では、「成長の機会がないこと」がよく挙がります。アメリカでは年収7万ドルを超えた人たちにとって、お金は決定的なインセンティブにはなりません。成長につながる実感の方が重要なのです。この傾向は、とくに若い世代に顕著です。組織の中でヒエラルキーを登っていくことより、新しい挑戦に取り組み、そこで発生する課題を解決し、自ら成長することに強いモチベーションを感じるようになっています。

 戦略の実現には高度な人材が必要であり、高度な人材であるためには学び続けなければなりません。従業員のモチベーションを保つ意味でも、彼らが成長し続けるという意味でも、企業内学習が重要なのです。それがひいては、優秀な人材を引き留めることにもつながります。

 残念ながら多くの国の学校教育システムは、グローバル化したビジネスに必要な人材を供給する源泉となっていません。エンジニアが世界中で求められているにもかかわらず専攻する人が世界中で減っており、少なくともアメリカでは、高校卒業後にエンジニアリング専攻を希望すれば、かなりの確率で全額支給の奨学金を得られる可能性があります。2030年の時点で、エンジニアはヨーロッパで4500万人、アメリカで2500万人必要になると言われ、このままではまず間違いなく不足するでしょう。

 企業内学習は、「人材を維持する」「イノベーションを起こす」「企業として成長する」という三つの要素の実現に欠かせないエンジンです。優れたCEOの頭には、このことがしっかりと刻まれているのです。

企業内学習を提供するのは人事部門だと思いますが、彼らに求められる役割は変わるのでしょうか。

 CEOが企業内学習について課題を持ったとき、人事部門に相談することになるでしょう。しかし残念ながら、多くの人事部門が行っているのはトレーニングであって、ラーニングではありません。研修の場とメニューを提供し、教え、学ぶ意識を付与してはいますが、参加者の行動の変化までは確認していないのが現状です。もちろん、人事部門や研修部門の人は真剣に仕事をしているのですが、彼らが提供するカリキュラムやプログラムが、企業の戦略と整合していないのが問題なのです。

 効果的なラーニングには、ガバナンスが必要です。トップが意思決定に関与し、その効果をきちんと測る仕組みがあり、さらには事業部門や現場から見てどのようなラーニングが行われているかが明確にわかるようでなければなりません。

 その点、最近はビジネスサイドにいた人がCLOに就き、社内コンサルタントとして事業部門に貢献するケースが出てきました。また、ラーニングの効果を組織的に高めるため、アカデミックの世界からCLOに任命されるケースもあります。ジャック・ウェルチはGEのCLOとして、南カリフォルニア大学のスティーブ・カー教授を指名しました。アップル・ユニバーシティのCLOには、イェール大学の教授が就任しています。

 このように、企業内学習は確実に、企業の競争力に重大な影響を及ぼしつつあります。このたび『企業内学習入門~戦略なき人材育成を超えて』(英治出版)を上梓したのは、世界で起こり始めたそのような現状をお伝えしたかったからです。ビジネスサイドのリーダーは、従業員やマネジャーが学習し続けることの優先順位を高めなければなりません。人事部門も単に研修を提供するだけでなく、企業の中におけるラーニングの守護神となっていくべきです。

 企業内学習は企業活動にとっての贅沢品、または経営が苦しいときにはカットできるような「余分なもの」ではありません。ビジネスリーダーはビジネススクールに行ったりエグゼクティブ教育を受けたりと、自身にとってラーニングが大切であることを認識しています。それを、部下や組織全体に広げる責任があるのです。

 組織として効果的な企業内学習を推進している企業は、結果的に良い業績をあげているというデータがあります。企業内学習はすでに選択肢の問題ではなく、競争優位を維持し続けるために必要不可欠なことになっているのです。

(つづく)

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