しかしこの制度のもっと重要な意義は、会社に残ることを選んだ社員に与える影響ではないだろうか。アマゾンの物流センターでの仕事は決して華やかとはいえない。そこの社員にとって年に1度の退職ボーナスの提示は、会社と同僚に対してコミットメントを新たにするかどうか、じっくりと再検討するいい機会なのだ。言い換えると、この制度は社員が毎年会社を査定する機会でもある。彼らは「この会社で、この部署で、この同僚たちと、仕事をしていない自分が想像できるだろうか?」と自問する。退職ボーナスを断って会社に残ることをみずから選んだ社員は、その決断によって仕事への意欲と会社への帰属意識を強めることになる。

 映画『ゴッドファーザー』で、暗殺の段取りを提案するマイケル・コルレオーネが兄ソニーに「個人的な恨みじゃないんだ。ビジネスに徹すればこそだよ」と言う名場面がある(もちろんコルレオーネ一家は、アマゾンとはまったく異なる方法で仲間を“退職”させたが)。このせりふは、ビジネスを成功させるには非情に徹すべし、というマネジメントの例としてよく引用される。しかし現在成功している企業は、これとは正反対の理念によって動いている。

 仕事とは、個人的な営みなのだ。私の知る真に偉大な企業は、どこもこの考え方に基づいて運営されている。企業が顧客のために経済的価値を創造する能力は、自社のすべての従業員に働きがいと連帯感を与える能力と直接的に相関する――成功している企業は、この揺るぎなき理念を持っているのだ。

 この理念こそ、企業幹部が退職ボーナス制度から学ぶべき大切な教訓だろう。実際にこの制度を採用するかどうかは重要ではない。さまざまな脅威、困難、競争にあふれているこの世界で、私が出会うビジネスリーダーの多くは、「夜も眠れないほど悩んでいる問題」や「頭から離れない心配事」を考えることに多くの時間を費やしている。しかし、特に現場を指揮するリーダーは、代わりにこう考えるほうがはるかに有意義だ。「社員が毎朝起きるのを楽しみにするような方法は何か」「熾烈な競争環境にあっても、全社員のコミットメントと意欲、興奮をかつてないほど高めるには、どうすればいいのか」

 成功しているイノベーターは、他者とは異なる考え方をする。シェイやベゾスがその体現者だ。しかし最も成功している企業は、手を抜いたり信念を曲げたりする機会がいくらでもあるこの世界で、他のどこよりも顧客と社員を大切にし、企業としての責任を自覚している。ユニークで魅力的な職場を社員に提供できないようでは、市場でもユニークで魅力的な存在にはなれない。つまり、経営戦略と企業文化は表裏一体なのだ。

 企業を成功に導くために考えるべきは、次の問いである。すべての階層において、社員はどれくらい組織とのつながりを感じ、仕事に意欲を持っているだろうか? 社員はどれくらい仕事を個人的なことと捉えているのか? 退職を受け入れてもらうために必要なボーナスはいくらだろうか? そして、社員が退職ボーナスを確実に断るようにするには、何ができるだろうか?


HBR.ORG原文:Why Amazon Is Copying Zappos and Paying Employees to Quit April 14, 2014

■こちらの記事もおすすめします
マッキンゼーの元採用マネジャーに聞く「人材の条件」:採用面接で優秀な人をいかに見抜くか
当事者意識はチームの士気を5倍にする

 

ウィリアム・テイラー(William C. Taylor)
『ファストカンパニー』誌の共同創刊者。最新刊は『オンリーワン差別化戦略』(ダイヤモンド社)。既刊邦訳に『マーベリック・カンパニー 常識の壁を打ち破った超優良企業』(日本経済新聞出版社)がある。