一方、失敗を恐れて行動をためらうことは厳禁である。エンジニアのサンジーブ・シンは次のように語る。「指示を待つだけの者、困った時に助けを求めない者は、この会社では長続きしない」。各新人エンジニアにはそれぞれメンターが割り当てられ(通常はマネジャー職ではない先輩エンジニア)、ブートキャンプを無事に終えられるようサポートする。この投資がどれほどのものか、しばし考えてみよう。2011年には、ほぼ2週間おきに20~30人の新人たちのブートキャンプが開かれていた。したがって常時70~80人のエンジニアが、メンターとして駆り出され仕事を中断していたのだ。人材が常に不足している企業では、彼らのような貴重な人材は差し迫った仕事に専念するのが普通であろう。しかしフェイスブックの経営陣は、自社が発展し続けるにはマインドセットの浸透に十分な時間をかけるべきである、という確固とした信念を持っているのだ。

 フェイスブックや他の多くの事例から学べるスケールアップの教訓は、要約すれば次のようになる。猛烈な速さで、手当たり次第にリソースを獲得し事業地域を広げ、自社のロゴを貼りまくるだけでは、長期にわたる迅速で効果的なスケールアップは不可能である。時には大幅なスローダウンが必要なのだ。適切な人材を採用し、同じマインドセットを確実に共有させなければならない。

 これはスケールアップの初期段階において特に重要だろう。かつてグルーポンは「毎日の割引」を提供するサイトとして飛ぶ鳥を落とす勢いだった。しかし現在の苦境は、上記の教訓が実践されなかった結果であるように思える。シリコンバレーのインサイダーの話、一部の報道(フォーブス誌の記事)、元CEOが解雇された後に社員に宛てた手紙(ワシントンポスト紙の記事)から判断すると、株式公開後のグルーポンは“顧客のニーズを最重視する”というマインドセットを組織に行き渡らせることができなかったようだ。

 スケールアップの後期段階においても、時には立ち止まって仕切り直しをすることが必要なケースもある。スターバックスの創業者ハワード・シュルツは、2007年の社内文書で次のように述べた。「過去10年間にわたり、我々は店舗数を1000店未満から13000店以上に増やしてきた。いまにして思えば、成長と発展、規模拡大を目指す過程で、我々はスターバックス体験の希薄化につながる一連の決断を余技なくされた」。著書『スターバックス再生物語』(邦訳は徳間書店)の中で、シュルツは2008年のCEO復帰後に取り組んだ、“情熱を取り戻す”ためのステップを詳しく述べている。そして、かつての偉大なマインドセットを取り戻し、再生させることがいかに困難だったかを率直に語っている。

 最後に覚えておいてほしい。スケールアップに関するフェイスブックの成功は称賛に値するものだが、他のリーダーや組織が同社のマインドセットをそのまま踏襲することはお勧めしない。あらゆる組織に――あるいは同じ組織内のすべての部署に――共通する正しいマインドセットなど存在しないのだ。ある組織にとって遵守すべきことは、他の組織ではタブーにもなりえる。我々はVMウェアの幹部に、「素早く動き、破壊せよ」という哲学に沿っているかと尋ねたところ、彼は笑いながらこう答えた。「当社のほとんどの部署は、それと正反対のマインドセットを持っているでしょう。とりわけ原子力潜水艦用のソフトウェアを開発する部署ではね」


HBR.ORG原文:The Scaling Lesson from Facebook’s Miraculous 10-Year Rise February 4, 2014

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ロバート・I・サットン(Robert I. Sutton)
スタンフォード大学エンジニアリング・スクール教授。経営科学と経営工学を担当。同大学のワーク・テクノロジー&オーガニゼーション・センターの共同ディレクター、およびテクノロジー・ベンチャーズ・プログラムの共同創設者。同大学d.スクールの共同創設者でもある。近著にScaling Up Excellenceがある。