会員の分割によって何が起きたか

 ネットフリックスは、公平性に関する人々の反応を刺激してしまったのだ。顧客はこの分割を、消費者余剰(最大支払い意思額と実際の取引額の差)を生むための方針ではなく、自分たちの負担によって同社を儲けさせるものだと解釈した。そして合理的な計算に基づく行為ではなくても、同社を罰するために、サービスを退会したのである。

 同社の経営陣は、経済学だけでなく以下のような心理学や社会学の教訓も学んでいれば、この反応を予期できたかもしれない。

●顧客は、より高い価格にはより多くの利益が伴うものと考えている。
 顧客は一貫して、企業側のコストを過小評価し利益を過大評価する。そして価格の変更や差異は企業の利益に結びつくと考え、その価格は不公平であると結論づける(リサ・ボルトン、リュック・ワーロップ、ジョセフ・アルバによる関連論文)。過去の価格の推移、業態による価格の違い、顧客が考慮していないコストといった情報を提示しても、不公平であるという顧客の認識はさほど是正されない。

●顧客は、価格が上がってよいのはコストが上がる時のみであると考えている。
 コストが下がった時に価格を据え置くこと、そしてコストの上昇に応じて値上げすることについては公平であると考える。しかし需要の増加に伴う値上げは不公平であると見なす。企業の利益は顧客の負担によって生じている、というのが一般的な通念である(ダニエル・カーネマン、ジャック・クネッチ、リチャード・セイラーによる関連論文)。

●顧客は、値上げの背後に企業側のよからぬ動機があるのではないかと疑う。
 好ましくない動機を察知した場合、顧客は値上げが公平性を欠くと判断し、満足度と今後の購入意思を低下させる(マーガレット・キャンベルによる関連論文)。また、「恵まれない顧客」を助けるための価格差別(高齢者割引など)であれば、動機として問題視されない。そして動機を隠すことなく開示すれば、値上げによるイメージの低下を軽減できる。

●顧客は、品質向上のための値上げを公正であると考える。
 製品の品質が上がるのであれば値上げは受け入れられる(ラン・ジア、ケント・モンロー、ジェニファー・コックスによる関連論文)。したがって、企業は品質の向上を実証することで値上げを正当化すべきである。

●ほとんどの人は、機会さえあれば不公平を罰しようとする。
 複数の実験によれば、人々の85%は機会を与えられれば不公平に対して罰を与えることを望む――たとえその行為がコストを伴い、すぐには見返りが得られなくてもである(アーンスト・フェールとサイモン・ゲイシュターによる関連論文)。このことは、顧客に不公平と見なされるような施策がいかに企業のリスクとなるかを示す。