ここで、2社のリスクの高さを推測するために、金融危機前の2008年3月期から2013年3月期までの2社の主な財務数字の推移を見てみよう(図表参照)。

 これを見ると分かるように、ソフトバンクは全体に成長基調であるが、全体的に非常に安定している。特に多く企業が赤字に転落した2009年3月期の業績も、当期純利益が若干落ち込んだ程度である。また、ドコモについても、金融危機の影響がないことに加えて、6事業年度にわたって各数字があまり変わらずに推移している。このように、2社の業績はかなり安定しており、これから見ると、2社の中核事業である国内移動通信事業は比較的リスクが低いと言える。

 これは、2社の事業の中核である国内の移動体通信事業が、そもそも生活に必須なサービスであること、また国内市場はauを含めた3社の寡占状態にあり、「乗り換え」をはじめとする激しい顧客獲得競争はあるものの、心理的な面も含めたスイッチングコストを高く感じる人が実は比較的多く、実際には毎年のシェアは1%程度の変動しかないことなど、売上高がかなり安定していることなどが背景にあるためだと考えられる。さらに、2社の状況から、比較的長期間にわたって契約が継続することが多いサービス事業 の安定度の高さが見えてくる。昨今、モノを売る事業からサービス事業への転換を図ろうとする企業が増えているが、今回のケーススタディはその方向の優位性を確認できるケースの1つともいえる。

 このように、国内の移動通信事業を中心としたリスクが低く、また高収益の事業をベースに、借入金も使いながら、スプリントの大型買収を含め複数の買収に踏み切り、リスクをとったのがソフトバンクである。第1回で記載したように、このような動きを「危険だ」とする見方も一部にはある。確かに、そのような見方の一端が、格付けの引下げといえそうだ。

 ただ、国内の移動体通信を中心とした既存事業の高収益とリスクの低さはソフトバンクの事業のベースの強さを表しており、これをベースにした大型買収は、十分に勝算があっての行動という見方もできる。実際に、ソフトバンクは2014年3月期の決算発表の中で、今後の対処すべき課題の1つとして、「移動体通信を中心に、堅調な国内事業で創出される潤沢なキャッシュフローを原資として純有利子負債の削減に取り組んでいきます。」と述べている。まさにこれが実現した時に、株主よりの経営から、格付けまで考えたバランスのいい経営に戻り、ワンランク上の企業に変化するのではないだろうか。
 

 【参考文献】

 ・携帯電話の契約数 国内シェア(2014年) - ドコモ、au、ソフトバンク

 http://memorva.jp/ranking/sales/mobile_share_docomo_au_softbank_2014.php

 ・ソフトバンクをジャンク級に格下げ-ムーディーズ

 http://www.bloomberg.co.jp/news/123-MQ4LRJ6TTDU301.html

 ・ソフトバンク及びドコモの有価証券報告書及びIR資料