ウォーカーはこの結論を、シンプルかつ直接的な方法で試すことにした。まずは友人にも協力してもらい、ガレージセールやリサイクルショップで価値のない安物を無作為に買うことから始めた。価格は1ドルから4ドル程度だ。古い木槌、ホテルの古いルームキー、プラスチックのバナナ。どれも不用品以外の何物でもなく、本質的な価値はゼロに等しかった。

 続いて、ウォーカーは数名のライターに頼んで、それぞれの品物が登場するストーリー(小説)を書いてもらった。品物自体の描写ではなく、架空のヒューマン・ストーリーに登場する一要素として扱うことで、品物に新たな意義が与えられるようにした。

 ウォーカーはそれらの品物をイーベイに出品し、ストーリーを合わせて掲示した(購入者に誤解を与えぬよう、出品ページではストーリーが創作であること、および作者の名前が明記された)。すると驚くべき結果が表れた。品物の価格は平均で2700%上昇したのだ――入力ミスではなく、2700%だ。1ドルもしなかったマヨネーズの容器のミニチュアが、51ドルで売れた。ひびの入った陶器の馬の頭は、1ドル29セントだったものが46ドルで売れた。見捨てられていたこれら不用品の価値は、ストーリーを付与されたことで突然、不思議なほどに急上昇したのだ。

 プロジェクトが大成功を収め、そして非常に興味深いものだったため、ウォーカーらは実験を5回繰り返し、結果をウェブ上に公開している(実験の説明はこちら、各出品物の結果とストーリーはこちら)。また、書籍Significant Objecsにもまとめられている。

 ウォーカーの実験は、価値の概念が人間の脳内でどう形成されるのかをはっきりと、目に見える形で示してくれた。すなわち、缶切りは缶切り以上でも以下でもない。しかしそれがマイケル・グレイブス(アメリカの有名な建築家)の作品で近代美術館の常設展示品に含まれていると、別のものになる。靴はあくまで靴でしかないが、それがトムスであれば話は違う。私が1足トムスの靴を買えば、それまで靴を買えなかった子どもに無料で靴が贈られる。すると突然、その商品は魅力的な物語の一部となる。自分にとって何が重要なのかを、他者に示せる物語だ。そうしたものにこそ、私はお金を出したいと思う。

 価格を決定づける真の力も、ここから生じるのだ。

 製品・ブランドの数がかつてないペースで増えゆくこの世界では、ストーリーの力はますます強くなっている。1997年のブランドの数は世界で250万だった。現在では、1000万に近づいている。ということは、ほぼすべてのモノが急速にコモディティ化する状況にあるのだ。圧倒されるほどにモノがあふれている世界では、豊かな意義を持つ本物のストーリーが、企業の収益力を高める重要な要素となるのである。

 どなたか、私を夕食に招いてくださるだろうか?


HBR.ORG原文:If You Want to Raise Prices, Tell a Better Story July 31, 2013

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タイ・モンタギュー(Ty Montague)
ブランド・ストーリーの開発を支援するコ・コレクティブ(co:collective)の創設者。著書に『スーパーストーリーが人を動かす 共感を呼ぶビジョン&アクション』(日経BP社)がある。