いつだったか、大手銀行のCEO、人事部長と私で会議をしたことがある。会議の直前にCEOは、人事部長に失望していることを私に打ち明けた。何度も失敗を犯しながら何の責任も取ろうとしない彼には、辞めてもらう必要があるという。

 会議が始まり、途中で人事部長はCEOにフィードバックを求めた。扉は開いた、いまが好機だと私は感じた。ところがCEOは何も言わない。人事部長はそのポストに留まり、CEOを失望させ続けた。しかし直接的なフィードバックは与えられず、悪循環が続いた。

 CEOを批判するのは簡単だ。たしかにもっと大胆になるべきだった。しかし私たちの多くが、同じようにチャンスを逃してはいないだろうか? 恐れや緊張、あるいは他者の感情を傷つけることへの不安によって。CEOは明らかな怠慢から手痛い結果を招いたが、残念ながらこうしたことは珍しくない。

 これにはもっともな理由がある。大胆な行動は裏目に出ることがあるからだ。私が知る似たような別の場面では、ある企業のバイス・プレジデントが部下にフィードバックを求めたのだが、正直に意見を述べた彼は結局遠ざけられ、冷遇された。

 拒絶、失敗、あるいは嘲笑――これらは、目の前の瞬間を最も有効に使う時に生じるリスクだ。しかし私の経験では、大胆な行動は巧みなコミュニケーションと組み合わせれば、ほとんど常に報われる。なぜなら、その場のエネルギーを変化させ、これまでになかった新しい可能性を生み出すからだ。

 新たなチャンスを生むような大胆な行動を取る勇気は、リーダーにとって最も重要な資質となりうる。だからこそ、リーダーシップの育成においては勇気を育む経験をさせ、勇気を効果的に用いるためのコミュニケーション能力を養うべきなのだ。

 勇気を奮い起こし、目の前の一瞬を最大限有効に使うこと――そのリスクと見返りを見事に示す動画がある。ビリー・ジョエルのバンダービルト大学での公演を映したものだ。質疑応答の時間に、マイケル・ポラックという名の学生が手を挙げた。ジョエルに指名された彼は、「僕のピアノ伴奏で『ニューヨークの想い』を歌ってもらえませんか」と本人に頼んだのだ。

 一瞬、会場は静寂に包まれた。この一言によって、マイケルは大きな危険を冒した。聴衆の間に広がった緊張と不安は容易に想像できるだろう。ジョエルは短い沈黙の後、「OK」と応じた。2人の素晴らしい即興の動画は250万回以上も再生されている。


 あなたが似たような状況に遭遇し、こう言いたい、やりたいと思いながら時幾を逸してしまった経験はどれほどあるだろうか。次に同じような場面に出くわしたら、十分に注意を払おう。自分がどんな気分なのか、身体はどう反応しているのかを意識するのだ。鼓動が速まるのを感じるだろうか。行動すべきか否か、葛藤を感じるだろうか。そういった感情を味わうことこそが、一瞬を逃さず行動するための第一歩である。

 ウディ・アレンの有名な言葉に、「成功の8割はその場に出向くことでもたらされる」というのがある。たぶんその通りだろう。しかしそうであれば、私は残りの2割が最も重要だと言いたい。ただ出かけて行って、ランニングマシーンで走りながらテレビを見るだけでは十分ではない。最大のチャンスは、最も有意義な見返りが得られるような方法で時間を使うこと、そして状況を大きく変えるようなリスクを取ることによってもたらされる。

 さて、いまこの瞬間を最も有意義に使うために、あなたは何ができるだろう?


HBR.ORG原文:A Question That Can Change Your Life August 8, 2013

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ピーター・ブレグマン(Peter Bregman)
CEOおよびリーダーにアドバイスを行う戦略コンサルタント。最新刊は『最高の人生と仕事をつかむ18分の法則』(日本経済新聞出版社)。