3.「授かり効果」に気をつける
 授かり効果とは、1度所有した物に高い価値を置き、手放したくないと考えるバイアスを指す。損失回避ともいわれる。ダニエル・カーネマン()、ジャック・クネッチ、リチャード・セイラーが行った研究は特に興味深い。彼らは実験で、被験者の半数を無作為に選んでマグカップを与え、残る半数には同じだけの価値があるペンを与えた。伝統的な経済理論(コースの定理)によれば、マグカップを持つ人とペンを持つ人の約半数が所有物を交換したがるはずだ。しかしカーネマンらの実験では、実際に交換した人は格段に少なかった。単に所有しているというだけで手放したがらなかったのだ。たとえば日常生活でも、本棚に置かれて何年も手に取っていない本が、手放そうかと考えたとたんに大切に思えてくるのではないだろうか。

 心理学者でBBCの研究員も務めるトム・スタッフォードは、このバイアスへの対処法を説明している。「この品物をどれくらい大切に思うか」ではなく、「この品物を所有していないとしたら、手に入れるためにいくら支払うだろうか」と自問せよ、というものだ。キャリア選択の機会が訪れた時にも、同じことを応用できる。「このチャンスをどれくらい貴重だと思うか」ではなく、「このチャンスがなかったとしたら、手に入れるためにはどの程度犠牲を払うつもりがあるだろうか」と自問してみよう。

 成功は「規律なき拡大路線」を招き失敗のもとになる。ならばその単純な対処法は、「規律ある取捨選択」である。やみくもに否定するのではなく目的を持って、計画的かつ戦略的に、本質でないものを取り除こう。年に1度企画会議のなかで実施するだけでなく、絶えず不必要なものを削り、焦点を絞り、簡素化するのだ。明らかに時間の無駄となるものだけでなく、本当に大きなチャンスであっても切り捨てる覚悟が必要となる。この原則に従う勇気のある人や組織はごく少数だろう。だからこそ、「成功」と「大きな成功」の違いが生まれるのだ。


HBR.ORG原文:The Disciplined Pursuit of Less August 8, 2012

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グレッグ・マキューン(Greg McKeown)
シリコンバレーでリーダーシップと戦略のアドバイスを行うTHIS Inc.のCEO。2012年には世界経済フォーラムにより「ヤング・グローバル・リーダー」に選出された。著書にはEssentialism: The Disciplined Pursuit of LessおよびMultipliers: How the Best Leaders Make Everyone Smarterがあり、ともにベストセラー。