――制作中の作品の1つについて、残念なニュースがありましたね。2013年9月にピクサーは、2014年に予定していた『ザ・グッド・ダイナソー(The Good Dinosaur)』の公開を1年延期すると発表しました。つまり2005年以来初めて、2014年はピクサー作品の公開がない年となります。この決断に至るまでに、難しい話し合いがもたれたのではないでしょうか。

 これまでのどの作品でも、我々は大きな困難を抱えてきました。なかには、途中から全面的にやり直しを余技なくされたものもあります。『トイ・ストーリー2』がそうでした。『レミーのおいしいレストラン』もやり直しました。そして『ザ・グッド・ダイナソー』も同じです。昔は当社がまだ小さかったので、そうしたことに誰も関心を向けていませんでしたし、知られていませんでした。ピクサーが成功したいまになって人々は関心を持つようになり、「何が起きているのか?」と詮索するのです。当社で起きていることは、これまでと何ら変わりありません。つまり、作品が十分なクオリティに達しているかどうかを測る基準があり、それを何があろうと守っているのです。

 我々は「完全なプロセス」という概念を信じていません。目標はあらゆる問題を防ぐことではなく、よい映画をつくることです。

――ピクサーには約1200人の従業員がいますから、作品に関する企業秘密を握っている人々も少なくないでしょう。しかし、ピクサー作品に関する情報漏えいはほとんど起きませんね。なぜでしょうか。

 それには大きな理由があります。まず反対の例からお話ししましょう。私がディズニー・アニメーションの社長に就いた当時は、多くの情報漏えいがあり、誰もがそれを防ごうと躍起になっていました。不適切な発言をしているのは1人か2人の従業員で、それがスタジオ全体の士気を下げていたのです。

 私は全従業員を集め、こう説明しました。映画の制作では、最初に流されるストーリー・リール(ラフ画をつなげた単純なアニメーション映像。つまり映画作品の原型)には問題点がたくさん見つかる。実際、第一案は目も当てられない。その後、各分野のディレクター、ストーリー担当者を含めいろんなスタッフが集まって、作品をよくするために激しく議論する。話し合いが終わると、ディレクターとチームは各自の部署に戻り、議論の内容(何が問題だったか)を仲間に伝える。その時は仲間を信頼していなければならない。やがて作品の問題点が、スタジオ中に(噂として)知れ渡る。

 私は言いました。誰かが社外でその内容を話したり、ブロガーに教えたりすれば――それが当時起きていたことですが――その人物がやっているのは「信頼を裏切る」という行為なのだと。

 そう私が言った時、会場全体から拍手喝采が沸き起こりました。その場にいた1人か2人の漏えい者は、スタジオの全員が漏えいに対して心から腹を立てているという事実を目の当たりにしたのです。つまり、メッセージは私からではなく、聴衆の反応によって伝えられたということです。それ以来、その何者かによるリークはなくなりました。

 情報の漏えいを防ぐには、従業員に情報を与えればよい、というのが私の考えです。作品の問題点が何なのかを直接伝えれば、彼らはその解決に対して当事者意識を持ちます。従業員を信頼せず秘密に留めておけば、彼らは当事者意識を十分に持たないため、外部に口を滑らせやすくなります。つまり、我々は「結託」によって当事者意識を醸成し、情報を社内に留めているのです。