2030年にアジアトップの
人材育成会社になる

事業自体も人材と同じく“育成するもの”として取り組まれているようですね。

 子どもの頃から物理学者になりたかったんです。大学院でも理論物理を専攻して、本気で物理学者を目指していました。物理学を選んだ理由は、その学問の成果が100年、200年先に世界を支えるインフラになると考えたからです。

 例えば、電気を起こすこと、起こした電気を半導体を通じて光や音にすること……こうした現在のわれわれの社会に欠かせない産業インフラの技術は、100年前の物理学の成果が基盤になっています。研究の成果が、やがては未来のインフラになって世の中の役に立つということに憧れを抱きました。

 その感覚自体は、実は今もあまり変わっていません。今展開している事業では、結果が出るまでの時間軸はゆめゆめ100年、200年スパンではありませんが、「社会の役に立つ」「問題を解決する」といった根幹は同じで、私はそこにいちばん関心を向け、熱中してしまいます。暇さえあれば、「将来こういうのがあるといいな」と、サービスやビジョンを考えてばかりしますし、そんな時間が好きなのです。

落合さんは発明家タイプですね。事業を興す行為も、世の中にないものを生むという意味では“発明”ですから、発明家と起業家は似通ったところがあるのかもしれません。

2014年2月、アルー主催のセミナーにて、フェンシング五輪メダリストの太田雄貴選手と対談。「大切なのは、志を持ち新しい価値を切り拓くこと」

 突き動かされるものというか、私には、周囲に「やるな」と言われてもやろうと思ってしまうところがあります。何かしらアイデアを思い付くと、まずは役員に話してみるのですが、まあ大体ダメですね(笑)。しかしながら、「え?」という反応が返って来た時こそ、「よし、まずはやってみよう」と燃えるわけです(笑)。

 その後に少し形を作ってみて、社内やお客さまからフィードバックをもらい、修正を重ね、10回チャレンジして一つ進化すればよいのです。それをどこまでやり続けられるか、自分の中で覚悟やモチベーションを持ち続けられるか、それが大事だと思うのです。

 そのためには、やはり自分の原体験、つまり「何のためにこの事業を始めたのか?」ということを折に触れて確認する作業が必要だと思うんです。でないと、「マーケットはこうだ」とか「顧客のニーズが」といった合理的要素が、逆に新しいチャレンジから逃れるための言い訳にもなりかねません。

最後に、アルーの今後のビジョンや成長戦略についてうかがいます。先ほど2030年までのアジア圏経済の見通しをお話しされましたが、今からおよそ15年後を見据え、どんな達成目標をお持ちですか。

 2030年には「アジアでトップの人材育成会社」になっていたいのです。アジア10カ国で10の事業を10企業で展開するのが大きな目標です。その頃は、ビジネスに関して国と国の垣根がいっそう低くなり、国をまたいだ人材の移動もますます活発になっているでしょう。

 その際に必要なスキルやノウハウはもちろん、顧客の抱える課題を解決に導く本質的な価値を提供できる人材コンサルティングネットワークとしてわれわれがいる。そういう存在になることを目標としています。

(前編はこちらから)

 


 

Interviewer's Note

「100本ノック」「習うより慣れろ」「守・破・離(しゅはり)の精神」という落合さんの言葉は、一見、根性主義や精神主義の研修を連想させる。大学院に進んで物理学者を志し、修了後は、グローバルコンサルティングファームで実践的なビジネスを叩き込まれた落合さんのイメージとはどうも合致しない。実際、アルーが提供する人材育成プログラムは、合理的なロジックに基づき、かつ最新テクノロジーを活用するユニークな内容だ。

だが、落合さんはなおも言う。「本当に身に付くまでトレーニングしないとだめ」だと。つまり、世界に通用する人材になるには、ロジックやITで知識を得るだけでは到底足りず、そのレベルを超える人材育成環境を提供することが自らの使命であるという、落合さんの強い信念の現れでもある。

彼の「経営美学」を土台に、合理性やITの優位性をかけ合わせたところにアルーのオリジナリティがある。そして、その両糸をビジネスに織りなすことが、創業わずか11年でアジア6カ国に事業展開を果たした実績と、今後、新しい試みにチャレンジしながら成長するという企業の原動力につながっているのだと思う。

河尻亨一 Koichi Kawajiri
早稲田大学政治経済学部卒。マドラ出版を経て独立。雑誌「広告批評」編集部在籍中、広告を中心に多様なカルチャー領域とメディア、社会事象を横断するさまざまな特集を手がけ、多くの表現者にインタビューを行う。現在は編集×広告の実験型レーベル「銀河ライター」を主宰し、紙面やウェブサイトでの執筆・編集、イベントの企画、ファシリテーション、企業の戦略立案、およびPRコンテンツの企画・制作・アドバイスなどを行っている。

 


 

「マネジメントの美学」
これからの時代にイノベーションを起こす経営者に必要な資質とは。マネジメントに必要な決断力、判断力、実行力を形成する経営者自身のフィロソフィー、時代を先取りするセンス、自身の直観を貫く強い意志――。これらを総合的に経営に傾けられる人間力を根底に持ちながら、独自のバリューを追求する経営者に会い、その経営における「美学」(=揺らぐことなき経営への情熱、こだわり、スタイル)を、河尻亨一氏のインタビューを通じて紹介する。
 



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