リッチモンド署のアプローチとは、よい行いをしている若者をつかまえて「ポジティブ・チケット」(善行切符)を与えようというものである。切符をもらうと映画館や地域の青少年センターなどに無料で入れる。リッチモンド署は年間平均で4万枚のポジティブ・チケットを与えた。これは同期間に切られた違反切符の3倍である。結果的に、そしてクラッパムの知らないうちに、これはロサダラインと呼ばれる比率(正確には、ポジティブな感情2.9に対しネガティブな感情1)になっている。これは、チーム内でのポジティブな感情がネガティブな感情の2.9倍を超えればチームの成功につながる、とされる比率である。好成績を上げているチームでは(ついでに言えば成功している結婚生活でも)、この比率は5:1にまで上昇する。だがこのことが取り締まりにも当てはまるのだろうか。

 クラッパムによれば、青少年の再犯率は60%から8%へと低下し、犯罪の数は全体で40%減少、青少年による犯罪は半減したという。そしてコストは従来の司法制度の10分の1に抑えられた。

 クラッパムが成し遂げたような好循環には威力がある。HBRの論文"The Power of Small Wins"(邦訳は本誌2012年2月号「進捗の法則」)では、マネジャーは従業員に比較的小さな成功の積み重ね(進捗)を経験させることで、満足度とモチベーションを著しく高めることができるとされている。これは、フレデリック・ハーズバーグによる1968年のHBR論文"One More Time: How Do You Motivate Employees?"(邦訳は本誌2003年4月号「モチベーションとは何か」)ですでに示されている見解でもある。この論文はHBRで最も広く読み継がれている名著の1つであるが、人の意欲を高める2つの主要因としてハーズバーグが示したのは、(1)達成、そして(2)達成が認められることである。

ごく小さな成功を称える

 上記の事例や論文から得られる教訓は、成功をただちに、そして心から称える組織文化を築くことの重要性だ。これに着手する3つのシンプルな方法がある。

1.次回のスタッフ・ミーティングから、冒頭で5分間、次の質問をして話し合う。「前回のミーティング以降、うまくいっていることは何だろう」。各スタッフに、他のメンバーが達成したことを具体的に、しっかりと認めてもらう。うまくいけば、このごく小さな質問から会話が広がっていくはずだ。

2.毎日2分間、よいことをしている人を見つけるために時間をとる。これは、あなたの周囲の人がよいことをしている時に、それを自覚させる最も手っ取り早く建設的な方法である。

3.オンラインの掲示板をつくり、従業員やパートナー企業、そして顧客までもが、日々感謝する対象を共有できるようにする。理想主義的だと思われるだろうか。新世代のメディア・出版会社であるマインドバレー(Mind Valley)のCEO、ビシェン・ラキアニがGratitude Log(喜びと感謝をつづるオンラインのコミュニティ)でまさにこれを実行している。

 これらは実践例のごく一部にすぎない。だが成功を称えるという原則の下に試してみれば、多大な成果が得られるかもしれない。

 実際に、ジンバルド自身がヒロイック・イマジネーション・プロジェクトという壮大な社会実験を試みている(TED Talksで語るジンバルドの動画〈英語音声のみ〉はこちら)。人々にヒロイズムの原則を教えることにより、勇気ある行動を促進できるというのがその理論だ。すでに素晴らしい結果が出始めている。

 スタンフォード監獄実験が示すものは大きい。しかし私たちが意図的かつ計画的に反対のことをしてみれば、何が起こるか想像してみてはいかがだろう。


HBR.ORG原文:Can We Reverse The Stanford Prison Experiment? June 12, 2012

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グレッグ・マキューン(Greg McKeown)
シリコンバレーでリーダーシップと戦略のアドバイスを行うTHIS Inc.のCEO。2012年には世界経済フォーラムにより「ヤング・グローバル・リーダー」に選出された。著書にはEssentialism: The Disciplined Pursuit of LessおよびMultipliers: How the Best Leaders Make Everyone Smarterがあり、ともにベストセラー。