現場の意思決定が、イノベーションの成功率を高める

――現場の意思決定は、イノベーションにどのように影響するのでしょうか。

 新規ビジネスに参入した時には、先行プレーヤーがいることが大半です。それらのライバル企業を追い抜くためには、イノベーションを起こすしかありません。長期にわたって成功している企業は、常にイノベーションを行っています。そのためには、何がうまくいっており、何がうまくいっていないのか、正しく選別する必要があります。そこで重要なのが、「規律ある実行モデル」(Disciplined Execution Model)を、組織として構築することです。

 たとえば、既存プレーヤーがいて、競争が厳しい事業に新規参入する場合、「新しい5つのことにチャレンジしよう」と目標を立てたとします。その際、いくら投資するのかという大枠を決め、成功の姿は何であるかを具体的に明示し、進捗状況を見るための評価尺度を設定することが欠かせません。
 当初挙げた5項目に均等に投資すると、たいていは徐々に差が生じてくるのが見て取れるでしょう。2つがうまく軌道に乗っているものの、2つはあまり芳しくないという状況が生じた時、現場で意思決定ができれば、素早く投下資源を再配分することができ、損失も抑えられます。上層部の意思決定を待ってからでは手遅れになりかねず、イノベーションもなかなか成功しないでしょう。つまり、現場がダイナミックに、その場その場で意思決定をすることが非常に重要なのです。それがイノベーションの成功率を上げることにつながります。
 イノベーションに失敗している企業の多くは、何がうまくいっていないのかを現場で把握できていないために、無駄な投資を続けてしまっています。当然、投資に対するリターンが低いわけですから、イノベーションは失敗だったとみなされてしまうのです。逆に言えば、そこをきちんと評価できている企業ほど、イノベーションに成功しているのです。

 マトリックス組織、評価尺度、「規律ある実行モデル」の3つが揃うことで、ダイナミックな意思決定が可能になります。評価尺度は、末端にいる人まで含めて、すべての人が見てすぐその成否を判断できるような基準であることが大事です。
 日本企業は特に、ダイナミックな意思決定を行うように努めなければなりません。日本人は規律のなかで着実に物事を進めることを得意としていますが、身軽に動くことは不得手です。一度決まったことに執着することで質を高めることも大切ですが、より機敏に変化に適応していくことも重要なのです。
 当然ながら、ここに挙げた要素はいずれも、成功を確実にする魔法の杖ではありません。多くの企業は、海外でもさまざまな調査を行ってベスト・プラクティスを学び、それを自社に活かしています。自前ですべて経験するのは、非常に多くのお金と時間がかかって非効率です。グローバルでもローカルでも、ベスト・プラクティスに学ぶ重要性は変わりません。
 他社から学び、企業内では他者と意見を交換して学ぶ。常に学び、イノベーションを実践しようとする仕組みをもった組織こそ、今日の成功を収めている企業と言えるでしょう。(了)