お客様、従業員、地域社会、株主の順番にやらないと、儲からない

――パートナー戦略でいえば、ペプシコとは10年以上、交渉が続いていたそうですが、松本会長に代わってなぜ急にうまくいったのでしょうか?

 パートナーの選択基準は、基本的には2つです。ひとつは大手と組むこと。もうひとつは、ローカルなパートナーを探すこと。後者は自ら探す場合もありますが、商社と一緒にやるケースが多いですね。前者の例がペプシコというわけですが、程度の問題はさておき、もともと相思相愛なところはあったんです。ペプシコが世界戦略の中で唯一うまくいっていないのが日本市場でしたから。過去の交渉がうまくいかなかったのは、細かいことにこだわっていたからでしょう。そんなことはひとまず一切忘れて、とりあえず結婚することが大事なんですよ。

 具体的には、ペプシコの日本法人のJFL(ジャパンフリトレー)を買います、その代わりにカルビーの株を20%持ってください、と。これでおしまいです。2時間もかかりません。カルビーはコーン系の商品が弱かったのでフリトレーは魅力でしたし、ペプシコにしてみれば、日本でうまくやっているカルビーは、多分そのうちに自分のものにしてやろうと思っているでしょう。だから株式は欲しいはず。それだけの話ですよ。

――カルビーの改革としては、もうひとつ、経営理念はそのままに、新たに「ビジョン」をつくられましたね。

 正直に言いますが、ジョンソン・エンド・ジョンソンのクレドをパクりました。あのクレドは、本当によくできているんです。私自身、社長を務めていた時に、何度も足したり引いたりできないか考えましたが、本当に非の打ちどころがない。だから、そこからビジョンをつくりました。これから世界展開する際には、これだけ伝えていけばいい。

 実は、クレドの通りにやらないとうまくいかないと私は思っています。すぐに株主のほうに走ってしまう。短期で稼いでとにかく配当を払えばいい、とやっていると、結局はうまくいかない。焦ったらダメなんです。クレドの順番通りにやれば、うまくいくんです。企業が成功するコツなんですよ。だから、それを短くしただけです。

 責任の一番は顧客と取引先。次は従業員とその家族。次が自分たちの住む地域社会や国、地球、環境、資源。その次が株主。この順番が気に入らないなら、株主は株を買わなければいいわけです。従業員には、これを耳にタコができるくらい言い続けています。文章だけでは伝わりにくいですが、実際に姿勢を見せれば、だんだんわかってきます。

 リコール問題が起きたときは、クレドの通り行動する象徴的な機会でしたね。最初は従業員たちの間に、ちょっと迷いがあったんです。みんなで相談しようとしていたので、私が叱ったんです。お客様が一番。そう決まっているんだから、相談なんかいらない。食品企業やヘルスケアの企業で一番大事なことは、安全・安心。国が定めた法律を守っているかどうかにかかわらず、すぐに対応しないといけないんです 。