このときミスミは、カスタム化の価値を追求するのをやめ、多くの顧客のニーズの最大公約数として標準品を企画・開発した。標準品も多様ではあるが、共通部分もあるので、その共通部分を半製品として大量に作り、注文が入った段階で最終加工をして多様な標準品を作り出すことにした。半製品は大量生産するので、規模の経済が働き、コストを抑えることができる。また、半製品で在庫をもつようにすれば、在庫をそれほど増やすことなく、多様な標準品をすぐに用意することができるので、コストアップせずに短納期を達成できる。つまり、カスタム化をあきらめることで、残りの2つの価値(コストと短納期)を同時に実現することができたのである。

トレードオフをいかにマネジメントするか

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二次元で見るとトレードオフ 

 ユニクロ、ザラ、ミスミの例は、成功する二兎戦略が次のようなプロセスを経て生み出されることを示唆している。最初は、XとYという2つの目的(価値)がトレードオフだと思われていたとしよう。ここで、2つの価値の

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視点を転換する(第3の価値から見る)と、 トレードオフではない。

トレードオフという視点から、他の追求すべき価値も含めた3つの価値の三すくみという視点に変えてみる。たとえて言えば、二次元で見ていたのを、三次元で見るようなものである。二次元で見ていたときには、XとYは一直線の両極であると思われていたが、Z軸から見ると(上から見ると)、XとYは直線の両極ではないことに気づく。そうすれば、XとYの両方を追求する道に気づき、その道が有効な二兎戦略になるかもしれない。つまり、視点を変えることで、トレードオフであると考えていた2つの価値を、同時に両方追求すること(二兎戦略)が可能となるかもしれないのである。

 この連載では、追求すべき2つの目的があり、それがトレードオフであるとき、どのように対処したらよいかを考えてきた。いずれか片方の目的を全力で追及する一兎戦略が有効だと主張されることが多いが、本連載では、2つの目的をバランスさせて追求する二兎戦略が有効な場合はどのような場合か、どうやって成功させるのかについて、いろいろな事例、研究を振り返りながら、議論してきた。

 二兎戦略が有効な場合として、技術が進歩してトレードオフが解消されるときと、2つの価値それぞれについて一兎戦略をとる企業が激しい競争を繰り広げる結果、2つの価値の中間に空白地帯が生まれるときの2つの場合を指摘した。また、二兎戦略が成功するには、1つ1つの競争要素で中途半端に2つの価値を追求するのではなく、競争要素ごとにどちらの価値を追求するかはっきりさせ、異なる価値を追求している競争要素を組み合わせた方が良いのではないかと提案した。さらに、視点を変えてトレードオフを眺めなおすことによって、2つの目的をバランスさせて追求する道=二兎戦略が見えてくるかもしれないと示唆した。これらの条件や特徴を意識して使えば、二兎を追う方法も、トレードオフの有効なマネジメント方法になるであろう。