定番商品を中心にすることで、品数が絞られ、SKU(ストック・キーピング・ユニット)あたりの生産量が大きくなる。発注量が大きいので、技術力の高い工場と委託生産契約を結びやすい。また、定番商品なのですぐに取り扱いがなくなること(売り切れ御免)ではない。ゆえに、素材メーカーとの濃密な協働を行い、時間をかけて改良をしていくことができる。つまり、ファッション性を追求しない(取扱商品を定番に絞っている)ことが、品質向上を促進しているのである。

 ユニクロとZARAは異なるトレードオフに直面しているというよりは、どちらにとってもファッション性、コスト、品質という価値が三すくみになっていると考えられる。この三すくみ状態は、アパレル小売一般に当てはまるかもしれない。3つの価値のなかで、ユニクロは、ファッション性という価値を追求することをやめ、ZARAは品質という価値の追及をあきらめたのである。

 さらに、ユニクロは、ファッション性の追求をあきらめて定番商品を中心に品揃えを絞ったおかげで、大量発注、継続的な改良を生み出し、トレードオフにある品質と価格の両方を同時に達成することができた。ZARAも、品質にこだわらないがゆえに、ファッション性の高い商品を低価格で提供しながら、売れ残りのリスクを抑え込むことに成功している。

視点の転換で消えるトレードオフ

 ユニクロとZARAは、2つの価値のトレードオフではなく、3つの価値の三すくみという視点を持つことによって、二兎戦略を成功させたと考えられる。視点を変えることによって直面するトレードオフを解消し、対立する価値を同時に実現したもう1つの例として、金型部品などを生産・販売するミスミを挙げることができる。ミスミは1960年代に設立され、金型用部品の販売を行っていた。当時、顧客である金型メーカーは、自社の金型にあったカスタム部品を、欲しいときにすぐに持ってきてくれることを望んでいた。もちろん価格も安い方が良い。しかし、部品のカスタム化が進めば進むほど、注文は小ロットになり、コスト上昇につながる。つまり、カスタム化とコストはトレードオフである。また、短納期を実現するためには、在庫を多めに抱えておく必要があるので、やはりコストを上昇させる。つまり、短納期とコストもトレードオフである。