企業が一兎戦略をとって激しく競争していると、両方の価値の組み合わせ(中間地帯)に対する需要が生まれるのは、ホテルだけではない。ほかの業界でもしばしば見受けられる。

「俺のイタリアン」が狙った中間地帯

 中間地帯を狙って急成長を遂げた最近の事例が、「俺のイタリアン」や「俺のフレンチ」など、行列が絶えない人気店を展開している俺の株式会社であろう。「俺のイタリアン」や「俺のフレンチ」では、ミシュランの星付き店の経験者であるシェフによる高級食材を用いた料理を、超低価格で提供する。当初は銀座を中心にお店を展開。店舗はそれほど広くなく、ほとんどが立ち席である。

 この外食チェーンは、コスト対高級化、コスト対差別化といった価値のトレードオフで考えると、一兎戦略をとっているとは考えられない。価格、店舗の内装(立ち席)に着目すれば、低コストを追求しているように見える。他方、料理、食材、シェフ、立地などに着目すれば、高級化や差別化を追求しているように見える。なぜ、「俺の○○○」はスタック・イン・ザ・ミドルに陥らないのであろうか。

 それは、上述のホテルの例に照らし合わせて考えれば合点がいく。外食産業でも、居酒屋チェーンやファミレスなど低コスト、低価格を追求している企業がある一方、高級化、差別化を追求している高級店も存在する。それぞれが、その領域で激しい競争を繰り広げているので、低価格と高級化を両極とする中間地帯、つまり2つ価値の適度な組み合わせに対する需要、空白地帯が生まれる。この中間的な空白地帯に、「俺の○○○」は二兎戦略によって巧みに入っていったと考えられる。「俺の○○○」は、居酒屋チェーンと比べれば明らかに高級路線で際立っており、高級レストランと比べれば明らかに低価格路線で際立っているのである。

 この両極の価値の中間地帯をターゲットとするというのは、H. ホテリングという経済学者が始めた立地モデルと相通じる。ここでその詳細を論じることはできないが、立地モデルでは、東西に延びた砂浜にアイスクリーム屋を建てるのであれば、中間地点に建てるのが望ましいことや、二大政党が争っているようなときには、両方の政党が打ち出す政策が次第に似てきて、両政党が中道化するといった現象が説明される。

 外食産業に話を戻そう。先ほども述べたように、レストランは、価格、料理、広告、店舗の立地や内装といったいくつかの点(競争要素と呼ぼう)で、自分たちの魅力を打ち出す。今挙げた4つの競争要素は、それぞれprice, product, promotion, placeというよく知られたマーケティングにおける「4つのP」に対応している。一兎戦略をとるレストランは、4つのPすべてにおいて、低コストあるいは高級化を目指す、つまり徹底していずれかの価値を追求すべしといわれる。

 では、どちらかの極を狙うのではなく、その中間を狙う場合にはどうすべきなのだろうか。それには2つのやり方が考えられる。1つは、それぞれの競争要素において、中間的な水準を達成するというやり方であり、もう1つは、ある競争要素では低コスト、別の競争要素では高級化をそれぞれ追求し、それを組み合わせるという方法である。