そもそも店舗で抱える在庫は、店舗ごとの売上予測に基づいて決められていた。在庫を適正な量にするために、売上予測を、チェーン全体、エリアごと、店舗ごとというようにどんどん細分化して行うことで、精度をあげようとした結果である。しかし、投入される努力の割には、予測精度はほとんど向上しない。つまり、売上予測の精度向上とそれによる機会ロスの減少・売上の増大という価値は、逓減していたのである。そこで、細分化して予測精度を上げようとするのではなく、エリアでまとめてある程度の在庫を持つことで機会ロスをなくすように変えた。つまり、予測精度の向上ばかりを追求するのではなく、在庫をある程度抱えることによる機会ロスの減少に力を入れるようになったのである。

 このように、1つの価値を追求して努力を投入し続けると、価値の増大のペースは遅くなる。あるいは、努力を投入して1つの価値を追求すればするほど、その価値の追加的な増分は小さくなる。前に示した通り、価値の生産曲線が逓減的であれば、二兎戦略をとる方が望ましくなる。つまり、一兎戦略の遂行プロセスのなかに、二兎戦略が合理的になるメカニズムが組み込まれているとも考えられる。一兎戦略をとる企業は、それを徹底することで、二兎戦略への戦略転換の必要性を生み出していることになるのである。

(注1)ブラッド・ストーン『ジェフ・ベゾス 果てなき野望』日経BP社、2014年

(注2)F. ブルックス、『人月の神話』、ピアソン・エデュケーション、2002年

(注3)E.ゴールドラット、『ザ・クリスタルボール』、ダイヤモンド社、2009年