TD銀行は、顧客本位のサービスをどのように維持しているのだろうか。その多くは、同行におけるリーダーシップの要件に関係している。欠点を修正するのではなく、好ましい振る舞いを奨励することをリーダーの責務としているのだ。窓口スタッフは、サービス重視の原則を列挙した「誓約書」を携帯している。マネジャーと幹部は、店舗を巡回する際にステッカーの束を持参する。ある経営幹部によれば、「よい行いをしているスタッフを捕まえて、その人の誓約書の裏側にこのステッカーを貼りつける」。誓約書がステッカーで一杯になると、そのスタッフは表彰される。

「スタッフのしくじりを見つけるのは簡単です」と、この幹部は私に言った。「我が社の原動力はハイタッチであり、顧客と強く関わり喜んでもらうための一風変わった行動です。この銀行でのマネジャーと幹部の仕事は、スタッフのよい振る舞いを見つけ出すことなのです」(与えられるステッカーの数は、1年で約10万枚に上る)。

 ウォード・クラッパムの仕事はまさに、しくじった人を捕まえることである。彼はカナダで3番目に大規模な警察組織、ブリティッシュコロンビア州リッチモンドの王立カナダ騎馬警察隊を率いることになった時、青少年の犯罪と不良行為への対処を迫られた。何とかしようと考えついたのが、「ポジティブ・チケット」と呼ぶ革新的な方法だ。

 当然のことだが、配下の警官たちは法を犯した少年たちを検挙し出頭を命じる。しかし同時に、トラブルから身を遠ざけている非行予備軍や、学校やスケート場での小さな善行によって世の中を少しでもよくすることに貢献している青少年を見つけることにも精を出す。そうした現場を見つけると、「ポジティブ・チケット」を切る。チケットはレストランでの食事、映画館やテーマパークへの入場などに使える。クラッパムは著書Breaking With the Law (未訳)でこう述べている。「悪いことをした子どもではなく、いいことをした子どもを捕まえる。これがポジティブ・チケットという概念である」

 クラッパム率いる警官隊が1年間に発行したポジティブ・チケットは4万枚で、違反者への出頭通告の3倍に上る。その結果、青少年犯罪に関連した通報は半減し、推計1000人が法の裁きを受けずに済んだという。さらには、警察とコミュニティとの関係そのものが変化した。「嬉しいことに、駐車場のパトカーに大勢の子どもたちが集まってくる。私の姿を見て逃げ出すのではなく、駆け寄ってくるのだ。私をハンターではなく、友だちのように感じてくれている」

 事例が急成長中の銀行であれ、犯罪の多い地域であれ、得られる教訓は単純にして説得力に富む。最善の行いが当たり前となる環境を目指して、すべての人から最善の行いを引き出せるかどうかは、リーダー次第なのだ。間違いを正そうと躍起になるのではなく、正しい行動に目を向け、称えること――これが、ビジネスに人間らしさを取り戻す方法である。


HBR.ORG原文:Catch People in the Act of Doing Things Right October 10, 2012

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ウィリアム・テイラー(William C. Taylor)
『ファストカンパニー』誌の共同創刊者。最新刊は『オンリーワン差別化戦略』(ダイヤモンド社)。既刊邦訳に『マーベリック・カンパニー 常識の壁を打ち破った超優良企業』(日本経済新聞出版社)がある。