データ・サイエンティストが予測するアナリティクスの未来

 前述の「社会トレンド」と「技術トレンド」を掛け合わせることで見えてくる、2030年の社会におけるアナリティクスの活用例を大きく5つ、考えてみた。

(1)「人口動態・寿命×個人情報一元管理」
 2010年に京都大学が発表した調査資料「医療費及び医療財政の将来推計」 によると、2030年には国民の医療費は60兆円を超えると推計されている。政府は医療費の高騰に苦しみ、医療の効率性を追求するようになるだろう。たとえば、皮下に埋め込まれた電子タグが心臓の鼓動、血圧、コレステロール値を絶えず記録し、アナリティクスにより規範と乖離した値を監視することで、予防医療や予防治療、予知検査の実施が可能になる。実際、筆者がニューヨーク市に勤務していた際に携わったPCIP(Primary Care Information Project)では、予防医療が進んでおり、単なるレセプト連携ではなく、処方箋に対する副作用の検知や、問診時において前回の血糖値検査結果の経過措置を、機械学習された自動アラートにより、医師に漏れなく適時介入を促すなどの医療判断支援システムの機能が導入済である。

(2)「資源×ウェアラブルデバイス」
 限られた資源を効率的に使うために、資源の共同所有が一般化する。その結果、エネルギー、土地、建物、移動手段、電波、ネットワーク、サーバリソースなどあらゆる資源の価格が、需要に応じて変動することになるだろう。現在も駐車料金や電力料金が時間帯、曜日により異なる料金設定となっているが、将来は過去の蓄積データとデバイスからの最新情報をもとにより正確な需要予測が行われ、リアルタイム・プライシングが普及するだろう。リアルタイムが必要とされない分野においても、アナリティクスにより、一律の価格設定から、需要予測に応じた価格が導入され、資源利用の平準化(混雑の解消、資源不足の回避など)が行われるだろう。

(3)「社会のリスク×IoT/ディープ・ラーニング」
 保険会社は、リスクを最小限にするために、顧客に各種保険料の支払いを要求するだけでなく、アナリティクスによって顧客が設定された規範に従っているか、デバイスを通じて監視するようになる。ウェアラブルデバイスや、鏡、体重計、体温計、体脂肪測定器などの様々なセンサーから個人のデータを収集し、他者のデータと比較した結果を各人に通達し、喫煙、飲酒、肥満、浪費、乱暴な運転などに対してペナルティを課す代わりに、規範に従っているユーザーには保険料プレミアムを落とすなどのベネフィットを与えることでバランスを取るだろう。そうすれば情報のオープン化に対するモチベーションも与えられる。

(4)「人の欲求×ウェアラブルデバイス」
 時間の重要性が増すことで、生活のあらゆる時間を削減するニーズに応えるために、他者の効率的な時間の活用・意思決定をベースに、本人の嗜好・健康・学歴・貯蓄に基づきカスタマイズするようになる。そうすることで、最適な消費活動、効率的な貯蓄や財産管理の方法、最適な睡眠時間・タイミング・環境の提供、といった生活全般の効率化のアドバイスが、ウェアラブルデバイスを通じて可能になる。

(5)「人の欲求×ニューロサイエンス」
 人類が孤独感を紛らわせるための消費への需要の高まりを受け、観客の好み・感情に応じて最適な形に見世物を変化させる事が可能になる。ニューロサイエンスにより脳内の反応は常にモニターされ、機械学習による脳波を入力値とした究極のパターン認識が進むと、アナリティクスによって、消費者がその時に望むエンタテインメントをレコメンドし、提供可能となる。

 上記は一例に過ぎないが、いずれにせよアナリティクスは今後、生活により密接にかかわり、それによるビジネスチャンスも増加するだろう。一方で、多くの組織がこれらの変化に十分な準備ができているとは言い難い。待ち受ける未来に対して、国や企業はこれから何をすべきか、それを次に考えたい。