技術トレンドはすでに生まれ始めている

 2030年までに登場するほとんどの新技術は、社会に普及する際に倫理的な問題やプライバシーの問題を引き起こすと考えられる。本稿では、そうした問題に対して、人の欲求と倫理的・プライバシーの問題のバランスをとる新たな規律が生まれ、広く社会に定着する、という前提にたつ。主要な技術トレンドは4つある。

(1)個人情報一元管理
 政府は、国民が最適な医療・教育・納税の規範に合致しているかどうか管理するために、生体認証技術等の方法を広く活用するようになる。個人のIDに紐づく情報(所属組織、健康状態、収入、学歴など)はオプトアウト可能だが、プライバシーよりも一元管理による利便性が上回るため、多くの国民が受け入れる。これは、第1回の冒頭に挙げたディズニー・ワールドの例からも、「顧客の期待を超えた価値の提供」さえできれば、個人情報が利用される不安を自身の得られるベネフィットが上回るため、大半の人がためらうことなく個人情報を登録するようになることが予測できる。

(2)ウェアラブルデバイス
 ネットにつながるパーソナルデバイスは体と一体化する。デバイスは、電話、手帳、パソコン、音楽、テレビ、財布、身分証明書、カギなど、生活に必要な機能のほぼ全てをカバーする。人々は、今まで以上にパーソナルデバイスに依存した生活を送るようになり、デバイスでの端末利用・アプリ操作・閲覧履歴は政府や保険会社などのリスク管理に使用される。米国家安全保障局(NSA)と英政府通信本部(GCHQ)が、スマホ向けアプリからユーザーの個人情報を「バックドア」を通じて取得可能であるいうニュースが話題となったのは記憶に新しい。

(3)IoT(Internet of Things*)/ディープ・ラーニング
 加速度センサーやRFID、通信モジュールの大幅な小型化、低消費電力化、低価格化により、IDが付与されたセンサーが、様々な「モノ」(生産設備、橋、建物、ダム、家、家電、移動手段など)に埋め込まれ、多数のセンサーが組み込まれた家庭用ロボットが日常生活において一般化する。センサーからのインプットを人間の脳に近い構造を有したパターン認識技術(ディープ・ラーニング)により分析することで、設備・インフラの予防保全や、家庭用ロボットの遠隔操作による家事支援、公共交通における無人走行などが可能になる。ディープ・ラーニングは、アンドロイド端末、アップルの音声入力にも活用済みだ。最近では、Googleが人工知能(AI)の開発を行うベンチャー企業であるDeepMind Technologiesを5億ドルで買収するなど、ディープ・ラーニングの先進企業の積極的な企業買収も行われている。

*Internet of Things: 従来までのコンピュータや携帯端末などにとどまらず、世の中に存在する様々なモノ(Things)が通信機能を持ち、インターネットを介した相互通信によって、監視や制御を可能とさせる概念。

(4)ニューロサイエンス
 脳波や神経物質を測定することで、頭の中の動きによって外部のデータベースから知識や情報を探し出したり、イメージするだけで、自分の代わりにロボットやコンピュータに作業をしてもらうことが可能になる。これはBMI(Brain Machine Interface)として研究が行われており、医療用ロボットから軍事用ロボットまでその応用範囲は広い。逆に、外部から脳に情報をインプットすることで、イメージを伝達する、旅行する、学習する、空想にふけるといったことが可能になる。今夏には、ヘッドバンドで脳波を測定し、アプリで自分のメンタル状況を把握、リラックスする方法やゲームなどをリコメンドしてくれるMelonが200ドルを切る価格での発売が予定されている。

 例示したように、こうした技術はすでに進化の途上にあり、今後いっそうの発展を遂げるだろう。ネットワーク技術によって、あらゆるものがつながることで新たなサービスが生まれ、個人情報を提供することでそうしたサービスを享受することができるようになる。