趣味嗜好に合わせた製品を選べる時代へ

――ものづくりのしやすい環境が整ったことで、貴社のようなメーカーは増えると思います。ものづくりは今後どうなるのでしょうか。

 ものづくりは洋服や靴と同じようになるのではないでしょうか。たとえば喫茶店で周りを見回した時に、自分と全く同じ服を着ている人がいれば「被った!」という気持ちになり、すごく“やっちゃった感”があると思います。なぜなら身の回りの2、30人で服装がかぶるということは、あまり想定していないからです。それくらい人間の趣味嗜好というものは多様です。多種多様なラインナップを揃えている代表的なものが服飾品で、ものづくりもそうなると思っています。

 車や携帯、テレビのように、技術が高度で需要が大量にあるものでは多様化は起こらないかもしれません。しかし、それ以外では恐ろしいほど製品が多様化すると思いますし、そういった世界が来ると思います。これまでの同じものを皆が使っていた時代から、それぞれのニーズに合ったものを選べる時代へという変化です。ハードウエア製作の障壁が下がって、最終発注数量が減っても生産が可能になるため、メーカーも多様な製品を提供しやすい。ネットを使って微細な趣味嗜好の違いが共有されるようになると、それぞれのニッチなニーズに合わせたものを使うという流れも加速するでしょう。

 おそらくこれまでは、多少の不満を持ってハードウエアを使っていたと思います。モデルはこれかこれしかない。その中間がなければどちらかで我慢する。けれども、そのモデル数が6、7と増えて細かなニーズに対応できるものが今後は出てくると思います。1つ1つのマーケットは小さくなりますが、製品の数が増えれば最終的な売り上げは変わらない。

 ニッチなコミュニティで情報が共有されやすいため、従来通りのマーケティング費用を掛けることもなくなると思います。マーケティングに回っていた費用で、新しいラインナップをもう一つ作るようになるのではないでしょうか。徐々にマーケティングに使うお金が減り、製品開発に使う額が増える。身の回りのものが多様化し、個人の趣味嗜好や仕事など周辺環境にマッチしたものが手に入る世の中になると思います。

――そのような世の中になると、大手のメーカーも変化していくと思われますか。

 変化するとすれば2つの方向性があると思います。1つ目は4、5人でワンチームにして、製品を出していくという他品種少量生産に合わせた組織体制に変える。2つ目はエンドの製品をつくることを止める。たとえばマウスのポジションセンサーです。外観は違っても同じ部品が使われていることは多いわけです。形状や制御法が違うだけで、中に使われている部品は5割くらいが共通しています。その部品を供給するメーカーになる。つまりモジュール供給メーカーになるという道筋です。実際にこのパターンを取り始めている大手メーカーも出てきています。B2Cの製品を止めてしまうのです。変化しない場合は、マーケットが大きいところに1極集中し、その市場を死守していくのだと思います。

 今の状況を見ていると、B2Bに特化し、部品メーカーやソリューションの側面を強める組み合わせで動こうとしているところが多い印象を受けます。製品部門を売却しているところも増えてきました。大手メーカーの事業方向性まで巻き込んで、世界規模で電子機器ビジネスが大きく変革しようとしている2014年だと思います。