三位一体

 消費者の頭の中での戦い方とは、すなわち、次の3つを順序を踏んで作ることである。それは「ビジョン」、「記憶Chain」、「組み換えアクション」の3つである。(図1)

 ここで言うビジョンこそ、他の2つ、「記憶Chainの構築」とその「組み換えアクション」という実作業の指針となるものである。それは、どの「失われた価値」を現代に蘇らせるかを言うものである。選択した「失われた価値」の差異に応じて、どれだけの規模・期間で人々を熱狂させるかも決まる。ジョブズがAppleのDNAと呼んだビジョンは、変わること急な現代において、少なくとも30年の間、世界中を熱狂させた。

 "It's technology married with liberal arts, married with the humanities, that yields the results that make our hearts sing." (機械とリベラル・アーツの融合、機械とヒューマニティの融合、それこそが人の心を動かす) (注2)

 では、現代に言うべきビジョンとは、すなわち取り戻すべき「失われた価値」とは、どうやって見付ければ良いのであろうか。それは、やはり経験を超えたところに答えが見つかる。私は、ここに労力を割く以上の投資を、未だ知らない。

 

流れの急な場所

 人はまったく新しい価値に熱狂することはない。世人が熱狂したものをよく検すれば、一見それが新しく見えても、実は社会が進む過程で「失われた価値」を取り戻したものであることに気付く。SEEKING回路は、世界の「新しい因果」に興奮する回路である。つまり、求めるべきは、「新しいが、どこか懐かしい価値」である。

 岩井先生の議論にも、さまざまな「失われた価値」についての言及があった。

「人間は本来交換する存在であるという交換の持つ本来の意味を、現代にかき立てる、そういう企業がある程度成功し始めているのかもしれない」

 交換の効率が極みに達し、そこで失われた「交換の本来の価値」を取り戻す企業が成功を収めている例である。フェイスブックが、また、コンテクストを作る仕組みを持つスターバックスが求められるのも、交換の場に「顔」を入れることで、「失われた交換の価値」を取り戻す企業であるからである。

「失った価値」を見つけ出す、その探し場所の一つ目は、社会が急速に変わった場所である。物事には両面あり、何かが急速に進むとき、そこには取り落とした価値が存在する。そして、変化が急であればあるほど、「失われた価値」への不満足は消費者の中に急激に蓄積し、そこに熱狂の素地が生じる。特に、その変化が人間の孤立をもたらし、GRIEF(寂しい)回路を刺激しているならば、消費者はその解消を本能的に求めているのである。

 また、選択したビジョンが、どれだけ長く人々を熱狂させるかは、この社会変化の期間と一致する。機械と人間性が激しく相克し、人に疎外感(GRIEF)を与えている間は、ジョブズのビジョンは、能くその役割を保った。そして、そのビジョンが今はどこか輝きを失ったように感じるのも、ジョブズが居ないからだけではない。

 社会の変化とは、経済の変化がもたらすものである。プロジェクトの度に、私が変化のポイントを求めて、岩井先生の資本主義論を参照するのはこのためである。そして、そこに「失われた価値」を見つけることは稀ではない。