熱狂のもと:「可能性」と「因果」

 SEEKING回路は、世の中の良いもの・こと、すべての機会(opportunity)を貪欲に探し続ける回路である。これをする個体・種だけが、長い進化の過程で生き残ってきたのである。

 この回路を人工的に刺激した場合、ラットは何の変わった所のないケージの中を、機会を求めて休む暇なく嗅ぎ回る。この回路の興奮が、中毒的な強いポジティヴな感情、多幸感(Euphoria)をもたらすため、マウスは食べ物を摂ることも忘れ、この回路への電気刺激をもたらすレバーを押し続ける。情報の伝達物質はドーパミンであり、自分が世界に対して「力を得た感覚」をもたらす。

 この回路を刺激するために、私たちが特に知悉すべき働きは2つである。それは「可能性」と「因果」についてである。

 まず、可能性についてである。この回路は実際の消費ではなく、消費の「可能性そのもの」に強く興奮し、強いポジティヴな感情をもたらす。むしろ消費を行っている際には、その興奮の程度が下がる。ラットは食べ物を食べている時よりも、それを探し、手掛かり(「Cue」)を見つけた時に、もっとも回路が興奮するのである。

 ヒトも同様である。カレーの匂いを嗅ぎつけた時の方が、実際に食べる時よりも興奮し、映画の予告編には本編よりもワクワクする。可能性の固まりである貨幣に熱狂するのも、モロよりチラを好むのも、この回路の働きである。

 ヒトを含む動物は、消費そのものよりも、その可能性を強く欲する。これを快感とする種だけが、何億年の進化の過程で、周囲の機会(opportunity)を逃さずに生き残ってきたのでる。

 SEEKING回路を刺激するもう1つが「因果」である。理解するために、極端な例を見よう。ヒトのSEEKING回路を「過剰に」興奮させたらどうなるか。この状態は統合失調症と同じ症状を発する。同じドーパミンを介在させる覚醒剤を多用した状態とも同じである。世界のあらゆるもの・ことが因果として結びつき、妄想が止まらなくなる。たとえば、上空を飛ぶヘリコプターが自分を連れ去りにきたものと信じるようになる。つまり、SEEKING回路は、常に新しいモノやコトの結びつき、すなわち「因果」を探しているのである。 

 この地面を突くと餌が得られるのではないか、このボタンを押せば餌が得られるのではないか、世の中のあらゆる機会を見つけるため、SEEKING回路は、「新しい因果」に対して強い快感をもたらす。周囲の世界に「新しい因果」を熱狂的に求める種だけが生き残ってきたのである。

 そして、この回路がアルキメデスに「ヘウレーカ」と叫ばせしめ、裸でギリシアの街を駆けさせた。自然界の「新しい因果」を発見したことで、彼のSEEKING回路が興奮し、多幸感に溢れたのだ。人間のSEEKING回路は、他の哺乳類に比べて相対的に大きく、また、大脳新皮質にまで特異的に伸びていることにより、概念的な領域での発見もSEEKING回路を興奮させる。

 何億年の昔、海底でヒドラが口の周りに集積したニューロンによって外界を探り始めた頃より、動物は「可能性」と「世界の新しい因果関係」を欲する個体・種だけが生き残ってきた。これが最も生存の役に立つ。したがって、最も根源的な強い感情である。