信任・信託の世界

 この選択の厳しさは、既に私たちの腹に不満として蓄積し、その解決策を知らず知らずに求めている。何でも選び「得る」世界で、本当に欲しいものを選べていない実感を持つことは、何とも不満足である。その解決のヒントこそ、21世紀の資本主義論の要ともなるべき「信任・信託関係」である。

「信任・信託的にすることによって、逆に人々が安心して交換関係に入れる」

 先生はいつも使われる医者と患者の例を示された。自分が医者にかかる場合、医者から治療法についての情報を得たとして、自身でどこまで判断が下せるものだろうか。そこには大きな情報の非対称性が存在する。私のことを私よりも医師の方が知っているという強い意味での情報の非対称性である。ここにおいては、判断を医師に任せる他ない。商品の選択肢が広がり、商品毎の違いが微細なものとなった現在、商品の売り手と買い手との関係においても、情報の非対称性は拡大している。

「ある面で相手の立場から信任を私に預けている人に対して、信頼を預けている人に対して、忠実にやるという倫理観。そういう義務を負っている信任・信託の世界にどんどんなっている」

 選択の無限地獄からの脱却を欲する消費者から、「信任・信託」を受けること。つまり、選ばれるのではなく、任されること。21世紀の企業競争において、勝つ企業が満たすべき必要条件である。そのためには、「信任・信託」に足る企業の「顔」を示さねばならない。そして、「顔」を見せることは、抽象性が高まり、「交換の本来の価値」が失われた現在、それ自体が強く欲されることでもある。では、どのような顔を見せるべきか、Appleのような他の数多の企業とは違う顔の作り方、それが次回の話。

*次回は4月23日(水)公開予定。

【注】
(1)ケインズ「雇用・利子および貨幣の一般理論」東洋経済新報社

 

【連載バックナンバー】
第1回 グーグルの逆説:資本主義的でないものを追求し利益を上げる