デザイン・リサーチには共感的経験が欠かせない

――データを集めるにあたっては、どのような点に注意していますか。

 我々はビッグデータやストリーミングデータも扱ったことがありますが、その際には消費者のプライバシーが非常に大きな障害となります。それに対して、我々の調査方法は、実際に現地の方と顔を合わせてミーティングを重ね、そこから意味のあるデータを取り出さなければなりません。即席スタジオにデータを集める前に、フィルタリングをする必要があるのです。そのためには、データをどこから得たのか、そのデータの信憑性と正しいデータを集めているという確証が必要となります。
 

 たとえば「美味しい食事をつくる」というテーマがあったとすると、美味しい食事の特性とは何か、考えますよね。そして原材料について考えた時、そのトレーサビリティが問題となります。もし自分で原材料をつくっていれば、それ以上確かなトレーサビリティはありません。そのように考えると、すべての製品は、その製品をよく分かっている人がつくっていることが分かります。カメラだって、iPhoneだってそうです。正しいデータが得られれば、素晴らしい製品、デザインをつくり出すことが可能なのです。そして最も信憑性があり、出所が明確なデータは自分の経験です。

 

――自分の主観を持ち込んでいいのですか。

 クライアントが何を知りたいかにもよります。個人的な意見は不要で、単純な事実のみを欲するのか、それともインスピレーションを欲しているのかを見極めなければなりません。しかし、どちらか極端ということはほとんどありません。インスピレーションは個人的な経験からくるものも多いので、主観はそれなりに大事なものです。
 たとえばミャンマーで金(gold)に関する調査をした時のことです。ミャンマーでは資産を金で保有するケースが多いのですが、インゴッドと宝飾品では価値に大きな差があります。我々のリサーチでは金のブレスレットをした女性に街中でインタビューしたり、インゴッドを家に保有している人にインタビューを行ったりしました。その一方で、6500ドル相当のインゴッドをポケットに入れて1日過ごす、というルールをつくりました。そうするとメンバーは、そのようなものを持ち歩く不安感といった感情的な側面から、金との距離が縮まるのです。金というモノに対する考え方が、たったそれだけのことで変わるのです。これはデザイン思考で非常に重要な「共感的経験」と呼ばれるものです。どれだけ消費者の気持ちに共感できるか、ということとイコールなのです。

 デザイン・リサーチの目的である “Why” を知るためには、多くの共感的経験を積むことが欠かせません。そうした経験から生まれたデザインというのは、きっと素晴らしいものになるはずです。(了)