真に求められるものをつくるための「センス・メーキング」

――2つ目のフィールドワークを原則とするのも、そうした理由があるからでしょうか。

 その通りです。いま、ミャンマーでプロジェクトを進めていますが、ミャンマーの市場や文化をどの程度知っていますか。多くの国ではデータが不足しているため、市場の理解が困難であったり、あるいは言語や文化の違いから生じる精神的な距離感を持っていたりします。そのような状況で、どうして現地の人たちのニーズを明確にすることができるでしょう。実際に足を運び、現地の人たちと同じように生活することで、初めて実際の姿を見ることができるようになるのです。
 たとえば、ミャンマーで貧困層を対象とした新しい金融サービスをデザインしようとします。そのためには貧困層がどのような人たちで、どのような生活をしているのかを知る必要があります。実際に「銀行口座に残高はいくらあるか」「ボーナスの支給額はいくらか」「最後に賄賂を渡したのはいつか」「大麻やヒスイなどの密輸をしているか」といったきわどい質問をしなければならないのですが、いきなりそのような質問はできませんよね。そうした質問をするためにも、信頼関係を築く必要があるのです。それでも答えを得るのは難しいものですが、そうやって現地の、そして調査に適切な人と信頼関係を築き、いろんな角度からデータを集めるためには、やはりフィールドワークしかないと思います。

――非常に大変なことだと思いますが、少人数サンプルだとデータに偏りは生じませんか。

いい質問ですね。ミャンマーでは実際には200人くらいの人と接触し、15000枚の写真を撮影し、そこから3000くらいの洞察を得ました。また科学的に、ある特定の消費者セグメントに関するリサーチをかけるとき、最適な人数は5~7人という研究結果もあります。この結果については、クライアントがさらに定量分析を行うため、検証評価もできます。ですからサンプルは少なくとも、正しくやれば少人数でもいいデータを得ることはできます。定量分析とデザイン・リサーチは相互補完の関係にあると言えるでしょう。

――特徴の最後に挙げられた「センス・メーキング」とはどのようなものでしょうか。

 リサーチには3つの種類があります。1つ目は、分からないことを明らかにする「基礎調査(Foundational Research)」。2つ目は、人々の言動や思考からインスピレーションを得るための「生成的調査(Generative Research)」。そして3つ目は、正しいデザインができているか、クライアントの出した条件や現地消費者の受容度、収益性やリスクなどを検討するための「検証調査(Evaluating Research)」です。
「センス・メーキング」は、特に2つ目の生成的調査から生まれます。先ほど挙げた「電気の通った村に住む女性」のような、結果の背景にある物語を見つけ出し、そこからさまざまな仮定を立てるプロセスです。データはどこからでも得ることができますが、そのデータの意味を考えることが重要なのです。このプロセスを経ることで、ニーズやユーザビリティといったものが本当はどこにあるのか、見出すことができるのです。

 私がノキアのリサーチ・センターに務めていた頃、よく「ノキアの携帯は、なぜ日本でのシェアが低いのでしょうか」という質問を受けました。しかしよりスマートな質問は「なぜ日本は素晴らしい端末をつくっているのに、グローバルで売れないのでしょうか」というものです。そこには生活様式の独自性や言語の違いといった文化的な距離があると言えます。開発チーム内でも多様性がなければ、その距離を埋めるのは困難を極めます。こうした文化的な距離を埋めること、多様な背景をもった人とチームを組むことなどは、包括的な意味で、デザイン上の課題といって差し支えないでしょう。「グローバルで売れる製品」をつくるには、グローバルな視野に立ったデザインが求められます。世界に通用するデザインの多くは、多様な視点から「センス・メーキング」を行うことで生まれるのです。(後編に続く)