アップルやピクサーを始めとした「グーグルの逆説」で成功している企業はすぐに頭に浮かぶだろう。ピカソやアインシュタインの登場する「Think Different」キャンペーンはアップルに集まる人の質を大きく変え、その後の成長の土壌を作った。ピクサー創業者のエド・キャットムルは、最高の創造性を持つ人材を集め、そして活かす方法を研究し続けた。結果、効率性からは遠く見える”playground”とも呼ばれる独特の職場を作り上げ、業界では稀な長期的な成長を生み出した(注5)。往年のソニーもやはり独自のスタイルを標榜することで、違いを生み出す多くの人間を集めて成功を遂げた。送られてくる履歴書の質で将来の利益率が大きく変わり得る。

 この「グーグルの逆説」が従来のビジネス書に書かれない「資本主義」の特質の1つである。そしてこの「グーグルの逆説」は、優秀な人材を企業に集めるだけでなく、「資本主義的でないものを追求する」企業を、消費者も欲するという動きによってさらに強められる。

抽象化する交換

 では、資本主義的な利潤ではなく、倫理的なものを追求する企業の商品を、消費者も志向する傾向があるのだろうか、そして、それをもたらしているのは何なのか。先生はこう仰った。

「そのヒントとして1つあるのが、ポスト産業資本主義に入って、お金が段々抽象化している。とはいえ、お金はそもそも昔から抽象的なものだったのですが、それが段々表に表れてきている。お金が抽象化すると、人間がモノを買ったり売ったりといった『交換する活動』が、どんどん抽象的になってしまう。ほとんど交換しているように見えなくなってきている。ここにヒントがあるわけです」

 ヒトを人たらしめる貨幣の両面が立ち現われる。資本主義の繁栄をもたらすと同時に、交換の場から人間の「顔」を遠ざけた貨幣の力である。

 現代の交換の場において、どんな企業が選ばれるのか。既存のビジネス書が語らない「交換が持っていた本来の価値」を見直すと、戦略の中心に企業の「顔」の必要性が現れる。それは既存のブランディング論では片付けられぬ話である。

*次回は4月16日(水)公開予定。

【注】
(1)岩井克人国際基督教大学客員教授。東大名誉教授。東京財団名誉研究員。東京大学経済学部卒。マサチューセッツ工科大学Ph.D.。イェール大学助教授、東京大学助教授、プリンストン大学客員準教授、ペンシルベニア大学客員教授などを経て、89年より東京大学経済学部教授。01年10月より03年9月まで同学部長。『Disequilibrium Dynamics』(日経・経済図書文化賞特賞)、『ヴェニスの商人の資本論』、『貨幣論』(サントリー学芸賞)、『会社はこれからどうなるのか』(小林秀雄賞)等。09年、ベオグラード大学名誉博士
(2)岩井克人「資本主義を語る」ちくま学芸文庫
(3)岩井克人「二十一世紀の資本主義論」ちくま学芸文庫
(4)岩井克人「二十一世紀の資本主義論」ちくま学芸文庫、第一章などを参照
(5)Innovate the Pixar Way, Bill Capodagli and Lynn Jackson, McGrawHill