そこから脱するため、私は岩井先生を訪うた。そして、先生から、既存のビジネス書が語らないもの、「資本主義」と「人」について伺った。

 経験に堕すことなく、理念的に語ること、ここに載せるのは、その対話の抜粋である。

正解のない世界

 東大を退官された先生は国際基督教大学(ICU)の他に、溜池の東京財団にもオフィスをもたれた。これからの競争戦略について答えを聞こうと急く私に、冒頭でこう仰った。

「ただね、違いというのは、正解がないということなんだ」

 商業資本主義、産業資本主義を経て現前したポスト産業資本主義において、意図的に違いを作ること以外に、利潤を生む方法は残されていない。その最たるものが、時間軸を移動して違いを生み出そうとするイノベーションである。(注3)

 ただし、そうであるからこそ、違いの作り方に唯一の正解など存在しない。そんなものが存在すれば、たちどころに真似されてしまう。この冒頭の言は、徒に答えを望むことをたしなめるものであった。先生はポスト産業資本主義の現在について、例を引きながら語り出された。

グーグルの逆説

「グーグルを調べているわけではないのだけれど」

 こう前置きをされた後、先生はグーグルの「20%タイム」とその社是について触れられた。20%タイムとは、グーグルが従業員に就業時間の20%を興味のあるプロジェクトに費やすことを許す仕組みであり、社是とは「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすること」である。

 先生はグーグルに典型的に表れたポスト産業資本主義の特質を、「グーグルの逆説」としてこう提示された。

「資本主義的じゃないことを追究することによって、つまり、お金で買えないものを追究することによって、逆にそれが最もお金を生む仕組みになっているということ」

 なぜこの逆説が成り立つのか。それを知るために、「お金の力が弱まった時代」としての現在を知らねばならない。

 先生は現在を語り出すために、資本主義の変遷をたどられた(注4)。資本主義の原理は変わらない。それはフェニキア人が地中海を往来する昔、そして「ヴェニスの商人」の昔から変わらない。違いから利潤を得ることがそれである。ただし、その違いを得る「方法」は移り変わる。