ベゾスは、10歳ですでに賢さの片鱗を示し、複雑な計算が得意だったようだ。夏休みに祖父母と車で旅行していたジェフ少年は、祖母が車の中でタバコを吸うのに辟易し、何とかしなくてはと考えた。後部座席に座り、祖母が1日何本タバコを吸ったか、1本当たり何回吸引したか、1回の吸引がどれほど健康を害するかを計算し、高らかに伝えた。「おばあちゃんの寿命は、9年分縮んだよ!」

 ジェフ少年の計算は正確だったかもしれない。しかし、祖母の反応は想定外だった――わっと泣き出したのだ。祖父は車を路肩に寄せ、外に出るようベゾスに言った。この時に祖父から学んだ教訓こそ、のちに億万長者となったベゾスが2010年のプリンストンの卒業式で伝えたいと考えたものだ。「祖父は私を見つめながら、しばらく黙っていました。やがて静かに、やさしくこう言ったのです。『ジェフ、いつかわかると思うが、賢くあるよりも思いやりを持つほうが、ずっと難しいことなんだよ』」

 これこそ、もっと多くのビジネスパーソンが理解すべき教訓だと思う。パネラ・ブレッドのささやかな親切に対する人々の反応は、その大切さを痛感させるものだ。実は、私自身も少し前に同じような経験をしている。とても感慨深かったので、その昔、本ブログにも書いたことがある。当時、私の父は車を買い換えようと販売店を回り、これぞという車を見つけた。ところが、試乗するために週末に車を借りたままで、突然入院することになる。返却を気にする父からの電話に対して、販売担当者はこう言った。「返却のご心配はいりません。それよりも、早くよくなってください」。翌朝ディーラーから、お見舞いのフラワーブーケとメッセージが病院に届き、父は彼の顧客になった。

「ビジネスの世界で思いやりを示すことが、なぜこれほど難しくなっているのだろう?」とこの時、私は書いた。「ささやかな思いやりさえ珍しいものになっているとしたら、私たち職業人はどうなってしまったのだろう?」

 パネラ・ブレッドのエピソードに関して本当に印象的な点は、ここにある。店長が病気の祖母に親切にしたことではなく、そのささやかな行動が、こんなにも世界中から注目され称えられたことが重要なのだ。

 テクノロジーを受け入れ、事業分析の手腕を発揮し、やることすべてに効率を追求せよ――部下にそう奨励するのは、もちろん全面的に正しい。しかし、効率性はいかなる場合にも、人間らしさを犠牲にしてはならない。ささやかでも人間らしい振る舞いが、多くを伝えることがある――自分(自社)が何者であり、何を大切にしているのか、自分と関わることで何を得られるのかを。思いやりを持つことは、賢くあるよりもずっと難しく、しかも大切なことなのだ。

HBR.ORG原文:It's More Important to Be Kind than Clever August 23, 2012

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ウィリアム・テイラー(William C. Taylor)
『ファストカンパニー』誌の共同創刊者。最新刊は『オンリーワン差別化戦略』(ダイヤモンド社)。既刊邦訳に『マーベリック・カンパニー 常識の壁を打ち破った超優良企業』(日本経済新聞出版社)がある。